才能の無さこそが『才能』なんだと
僕は天才になりたかった。
天才であってほしかった。
SNSやテレビで映る、光り輝く人たち。
才能に溢れた人たち。
反吐が出るほどに憎たらしく、殺したくなるほど涙を流したそんな彼らを。
やる気が失せる。そんな自分が嫌になる。
「辞めるのか?」
「……はい」
退部届を出す僕。
俯いていた。顧問の顔を見れなかった。
「はあ……」
顧問が息を吐いた。
昏い気持ちがせり上がる。
「何も解ってないな」
その言葉に無性に腹が立った。
顔を上げて、顧問を睨みつける。
けれど。
顧問は寂しそうだった。
「若いってのは良い。未来がある」
本気でそう言っている様子。
「まだ間に合う」
顧問が真剣な眼差しで言った。
「努力は実らない。報われないさ」
無責任にもそう言い放った。
「けれどその先には光がある」
——積み重ねと試行錯誤、つまり挑戦だ。
顧問は泥臭くそう言った。
「諦めたら終わりなんだ」
ぐっと、顧問が僕を見た。
貫くような、熱心な目つき。
「お前には才能がある」
嘘偽りのない、信じるような目で。
「今は苦しいだろう。他の奴に比べたら全然だ。一番下手だ。だが好きなのは知っている。頑張ろうと工夫して失敗しているのも知っている。辛い時期だ。だがあいつらには無い『力』がある……だから——」
顧問は言葉を区切って。
「前を向いてほしい——」
——その言葉を胸に。
「先生、あなたのおかげです」
僕は今。
世界の舞台に居る。
目指すはオリンピック金メダル。
「僕は今、未来に居ます」
世界の猛者たちを前に。
僕は今。
胸を躍らせている。
——チャレンジャー。
それが僕だったと。
才能だったと。
「征きます」
一歩踏み出した。
客席から歓声が沸く。
開幕だ。