三線
石垣で漁師をしていた親戚のオジィが死んで、形見分けとして一竿の三線をゆずり受けた。黒木で造られた貴重なもので、死後おれに渡して欲しいとあらかじめ遺言されていたらしい。
はて? オジィとは特段親しかったわけではない。というより、おれのほうでは多少彼のことを敬遠していた。
沖縄戦のとき鉄血勤皇隊として動員された彼は、一発の銃弾を発することもなく米兵に投降したという。
「ワンね、戦争でひとりも殺さなかったのよ」
それが酔ったときの口癖だ。
高校を出たら勝連基地で働こうと思っているおれにとって、そんなオジィは軽侮の対象でしかなかったのだ。
三線は部屋で飾っておくことにした。
が、それ以来いやな夢を見るようになった。
おれは有刺鉄線に囲われた荒地でへたり込んでいる。
周囲には骸骨のように痩せ細った男たち。
草をちぎっては口へと運んでいる。
死体にたかる蝿の羽音がうるさい。
ついに堪りかね、おれは畑の作物へ手をのばした。
とたん、米兵に思い切り尻を蹴飛ばされる。
「あきさみよーっ」
そこで、いつも夢から覚めるのだ。
これはひょっとしてオジィの呪い?
おれは母親のツテで、あるユタのところへその三線を持ち込んだ。
「これ、引き取って欲しいんですけど」
するとユタのオバァから「フラーっ(ばか)」と怒鳴られた。
「ナイチャーたちは床の間に日本刀を飾りたがるが、沖縄じゃ刀の代わりに三線を飾る。なんでか分かるかい?」
おれは首を横に振った。
「日本のどの土地よりも平和を愛してるからさ」
ユタは三線をつき返すと、うなずいてみせた。
「これはウチナンチュの誇りだ。大切に飾っておきなさい」