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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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三線

 石垣で漁師をしていた親戚のオジィが死んで、形見分けとして一竿の三線をゆずり受けた。黒木で造られた貴重なもので、死後おれに渡して欲しいとあらかじめ遺言されていたらしい。

 はて? オジィとは特段親しかったわけではない。というより、おれのほうでは多少彼のことを敬遠していた。

 沖縄戦のとき鉄血勤皇隊として動員された彼は、一発の銃弾を発することもなく米兵に投降したという。

「ワンね、戦争でひとりも殺さなかったのよ」

 それが酔ったときの口癖だ。

 高校を出たら勝連基地で働こうと思っているおれにとって、そんなオジィは軽侮の対象でしかなかったのだ。

 三線は部屋で飾っておくことにした。

 が、それ以来いやな夢を見るようになった。


 おれは有刺鉄線に囲われた荒地でへたり込んでいる。

 周囲には骸骨のように痩せ細った男たち。

 草をちぎっては口へと運んでいる。

 死体にたかる蝿の羽音がうるさい。

 ついに堪りかね、おれは畑の作物へ手をのばした。

 とたん、米兵に思い切り尻を蹴飛ばされる。

「あきさみよーっ」


 そこで、いつも夢から覚めるのだ。

 これはひょっとしてオジィの呪い?

 おれは母親のツテで、あるユタのところへその三線を持ち込んだ。

「これ、引き取って欲しいんですけど」

 するとユタのオバァから「フラーっ(ばか)」と怒鳴られた。

「ナイチャーたちは床の間に日本刀を飾りたがるが、沖縄じゃ刀の代わりに三線を飾る。なんでか分かるかい?」

 おれは首を横に振った。

「日本のどの土地よりも平和を愛してるからさ」

 ユタは三線をつき返すと、うなずいてみせた。

「これはウチナンチュの誇りだ。大切に飾っておきなさい」


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