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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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逆さ馬

 ジャラ……

 また床下から音がした。碁石の笥に手を突っ込んでかき回すような音だ。ささくれた筵のうえで寝返りを打ちながら、卯吉は小さく舌打ちをした。

 なんだってんだ、ちくしょうめ。

 眠りを妨げるほど大きな音ではないが、一度気になりだすと不快でたまらない。

 ジャラリ……

 月の明るい夜だった。隣りでだらしなく眠りこける女のほうへ目をやる。

 このアマぁ、よく平気で寝ていられるな。

 茅葺きの粗末な家だ。若い後家が宿の代わりに旅人を泊める野小屋。ついでに一夜の春もひさぐ。貧しい農村ではよくあることだった。

 ジャラジャラジャラ

 ついに我慢しきれず、卯吉は蚊帳のなかで身を起こした。

 そのとき女が寝ごとを言った。

「……戻ってきてくれたんだねえ」

「あん?」

 振り向いた卯吉は、仰天した。

 隣りで寝ていたのはボロをまとった骸骨だった。まばらに生えた髪が、血走った眼をすだれのごとく覆っている。

「もう逃がさないよお。あたしゃこの日が来るのをずっと待ってたんだからねえ」

「ひいっ」

 蚊帳を引き破り外へ這い出した。その足をつかもうと冷たい指先が触れる。

「た、た、助けてくれえっ」

 ついに小屋を逃げ出した卯吉は、そのまま村ざかいにある寺へと転がり込んだ。


 あくる朝、住職に伴われ再びおとずれた小屋は、倒壊寸前の廃家だった。その破れた床板のすき間から、平らな石がびっしりと敷き詰めてあるのが見える。石にはすべて血文字が書かれていた。左右を逆にした「馬」という字だ。

「ひとを呼び戻す為のまじないです。この家のあるじは魂魄となってなお、誰かを待ちこがれていたのでしょう」

 住職は静かに合掌した。


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