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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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暗流


 友人の葬儀は、彼の実家がある山間の小さな村で行われた。

 そこは険しい山道をバス二本乗り継いで行かねばならぬ、辺鄙な土地にあった。長らく文明社会から隔絶されたようなその村には未だに古い風習が残されていると生前彼がよく話していた。そのときは半信半疑で聞いていたが、いざ当人の葬儀に立ち会う段になって、彼の言ったことはすべて本当であると思い知らされた……。


 通夜を終え、弔客に振る舞われる酒食もおおかた片付いた夜半、突然遺族たちの手によって棺が外へと担ぎ出された。そろそろ床を借りて休もうかと思っていた私は一体何事だろうと驚いていたが、弔客がみなそれに従うので、仕方なく自分も列に加わった。

 濃い霧の立ちこめるなか、葬列はゆるゆると進んでいった。どうやら村の北東にある、三角山と呼ばれるピラミッド型をした小山を目ざしているらしかった。螺旋状に延びる急峻な坂道をのぼり山頂までたどり着いた頃には、私は汗びっしょりで肩で息をしていた。

 頂上には鎮守を祀る社があった。こうこうと篝火が焚かれ、地面を這う人々の影が森にそびえる木々と黒く折り重なって見えた。

 ふと見ると、社殿のわきに大きな古井戸がある。私は嫌な予感にかられたが、はたして祝詞とすすり泣きが入り交じるなか遺骸の入った棺は、やおら遺族たちの手によってその井戸のなかへと投げ入れられた。あっと驚いて一呼吸おいてから、ざんぶ、と水のはじける音がした。


 後になって聞いた話だが、その井戸の地下水脈は、村の遥か下に造られたダムへと通じているらしい。その水は、飲料水として広く下流域の世帯へと配られている。




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