真夜中の宴会
会社の資材部で働くO氏から聞いた話。
彼は大変な酒飲みで、正体を無くすまで酔っては所かまわず寝てしまうという悪癖があった。
あるときのこと。
酔いつぶれて神社の杉垣の根かたで寝てしまい、気づけばもう真夜中だった。見ると境内には火が焚かれ、それを囲んで大勢の男たちが宴会をやっている。ちょうど酔いもさめアルコールが恋しくなっていたO氏は、深夜のどさくさに乗じて彼らの宴席へまぎれ込んだ。
男たちは酒を飲みながら、なにかの遊びをしていた。
一人ずつ焚き火のまえへ進み出ては、
「△■∥◯▼っ!」
とでたらめなことを叫び、それを見てまわりの者たちがどっと笑いだす。
バカなことをするやつらだ。
O氏は半ばあきれていたが、どうやら一人ずつ順番にそれをやっているらしいことに気づいた。
「◯◆×卍◎っ!」
ついに隣にいた男が叫んで、喝采を浴びた。
いよいよO氏の番だ。
どうせみんな酔っ払っているのだと腹をくくり、おずおずと焚き火のまえへ進み出た。
息を吸い込む。
「あんじゃらぴー!」
そう叫んでから、あまりのバカバカしさに自分で噴き出した。
照れながら周囲を見まわす。
だれも笑っていなかった。
火明かりに照らされた彼らの顔は、明らかに怒りの表情を浮かべていた。
「◎▲×◯●っ!」
一人の男がO氏を指さした。
「◎▲◆∥◇っ!」
「卍△■◯▲っ!」
口々に叫んで一斉に立ちあがる。その手には角材や鉄パイプがにぎられていた。危うく袋叩きになるところを、O氏は命からがら逃げ帰ってきた。
「あんな目に遭うのは、もうこりごりです」
酒好きだった彼が、滅多に宴席へは顔を出さなくなった理由である。