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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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停留所

 路線バスの固いシートに腰かけながら、ぼくは不安で胸が張り裂けそうになっていた。

 一人でバスに乗るのは初めてだった。

 降りるべき停留所の名は母から聞かされている。

 でも、それがなんという名前だったか、どうしても思い出せないでいた。

 ――次は、サンショウジマ、サンショウジマ。

 アナウンスが流れる。

 違う、こんな名前じゃない。

 落ち着かない視線を窓の外へ向けながら、胃がぎゅっと縮まるのを覚えた。見たことのない景色がどんどん流れ過ぎてゆく。

 ――次は、ショウヅカ、ショウヅカ。お降りの際は、お手近の押しボタンでお知らせください。

 この名前も違う。母からは五つ先だと聞かされていたのに、もう十カ所くらい停留所を通り過ぎている。泣き出したい気持ちをぐっとこらえ、まわりの大人たちを見上げた。誰一人として、困っているぼくに注意を向けてくれそうな者はいなかった。

 ――次は、フラクホンザ、フラクホンザ。

 もしかしたら自分は、このまま帰れないのかもしれない。

 ふと、バスの行く手に大きな川が横たわっているのが見えた。橋もある。

 ――次は、シガン、シガン。

 やはり聞き覚えのない停留所だった。でもなぜだか胸騒ぎがする。ここで降りなければ。

 降車ボタンを押した。

 オレンジ色のランプが点灯する。

 バスがゆっくりと路肩へ寄った。

 ドアが開き、その向こうにひろがる美しい景色がぼくの目に飛び込んでくる。意を決して、一歩一歩ステップを降り始めた……。


 気がつくと、目の前に両親の顔があった。

 母は泣きながらぼくの名を呼んでいた。


 子供のころジャングルジムから転落して、病院へ運ばれたときの記憶です。


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