小父(おじ)さん
子供のころ、ぼくの家には小父さんが一緒に住んでいた。
小父さんというのは、体の大きさが一升瓶くらいの痩せた中年男だ。
性格は意地悪かつ残忍、とくに酔うと凶暴になり、寝ているぼくの顔を殴ったりたばこの火を押し付けてきたりする。ぼくの体にある無数のやけどの痕は、ぜんぶ小父さんの仕業じゃないかと思っている。
小父さんは、蹴飛ばしても踏んづけても死なない。おまけに、その姿はぼくにしか見えない。何度か母に小父さんの暴力を訴えたけど、困惑されるばかりで、しまいには病院へ連れていかれた。
ぼくがようやく小父さんを退治できたのは、小学校六年生のとき。インターネットで情報を集めた。小父さんを殺す方法は案外簡単だった。
――母があの男を殺したときと同じようにやればいい。
台所から調理用酒を持ち出して勉強机に置き、ぼくは押し入れに隠れた。すぐに小父さんがやって来てビンを蹴たおし、こぼれ出た酒を舐めはじめた。
しだいに目が据わってくる。今見つかったらタダでは済まない。じっと息を殺して待った。やがて大きないびきが聞こえはじめ、ぼくはそっと押し入れを抜け出した。
小父さんは机のうえで大の字になっていた。
ぼくは「母がやったのと同じように」タオルを濡らしてきて、それで小父さんの鼻と口を塞いだ。手足を振って暴れたけど懸命にこらえた。やがて小父さんはぐったりとなり、見るともう息はしていなかった。それでも念のため包丁で首を切り落とし、庭に穴を掘って埋めた。
あれから五年が経つ。
小父さんはもういないけど、仏壇の遺影に写るあの男は今でもぼくと母に冷たい視線を送ってくる。