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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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ぬっぺ封

 もう五年も前ェの話になるが、ちょうど七日盆を過ぎたころでな、お店もんはそろそろ薮入りだてんで浮かれてたが、俺たちにゃ関係ねえ、やっちゃ場で取引された青物を船へ積んじまうとあとはすることがないって、まだ日のあるうちから呑んだくれてたのよ。すると六つをすぎて間もなく、千住大橋の番をしている爺ィが、青い顔して俺たちのいる長屋へ駆け込んできたんだ。

 どうしたって訊くと、妖怪が出たという。橋ィ渡って、道中すじを中村町のほうへ向かったって話さ。面白ェひとつ面ァ見てやろうじゃないのって、俺ァ心張り棒ひっ掴んでおもてへ駆け出したのよ。

 すでに日もとっぷりと暮れ、橋を渡ってしばらく行くと田んぼや木立のあるなかを暗い夜道が一本、すーっと伸びているだけだ。しかもその先には回向院、つまり小塚原の刑場がある――。

 そこへいやがったのよ。あれァ妖怪なんてしろものじゃねえ、ただもう三十貫はありそうな肉のかたまりだ。そいつがピチャピチャ音を立て、刑場に晒された死体を食ってやがるのさ。うへえ、とんでもねェもん追いかけてきちまったって後悔したね。

 すっかり酔いも醒めて正直逃げ出したかったが、仲間が見ている手前そうもいかねえ、南無三っ、てんで心張り棒にぎりしめて、からだごとぶつかっていったんだ。

 ところがまったく手ごたえがねえ。ぬかに釘ってやつさ。棒はズブリと根もとまで埋まっちまった。で、あわてて引き抜いたら今度はパアンと音がして、一斤ほどの肉片となってそこらじゅうへ飛び散ったのよ。

 後で聞いた話じゃ、ぬっぺ封って妖怪なんだそうだ。

 ホント骨の無ェ野郎だったよ。



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