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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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ミイラ

 子供のころ、妹と行ったお祭りの夜店で映画を観たことがある。ビールを売るための客寄せで、境内の片隅にスクリーンを張って八ミリ映写機を回していたのだ。どんなフィルムを上映していたかはあまり記憶にない。ただひとつだけ鮮烈に覚えている映像があった。

「ミイラのつくりかた」

 セリフもナレーションもないモノクロ映画だ。

 映像は、まず山伏のような男たちがひとりの老人を座敷牢へ押し込めるところから始まる。

「あ、鳩ジイだ……」

 妹がつぶやいた。鳩ジイというのはいつも公園で鳩に餌をやる老人で、当時小学校裏のぼろアパートにひとりで暮らしていた。

〈ミイラになる者はまず木食行をします〉

 そんな字幕による解説のあと、座敷牢のなかでみるみる痩せてゆく鳩ジイの様子が早回しで映し出される。やがて骨と皮だけになった彼を、今度は袈裟を着せて山中へと連れ出した。

〈土中入定するときは手に鈴を持ちます〉

 木棺に入れられた鳩ジイが、地面に空いた大穴へロープで吊り下げられてゆく。一瞬レンズのほうを向いたその目がじつに悲しげだった。

〈鈴が鳴らなくなって千日経ったら土を掘り返します〉

 ついに妹が泣き出したので、俺は仕方なく彼女の手を引いて神社を後にした。なので鳩ジイがどんなミイラになったかは、結局わからずじまいだ。

 ところが妹はその映画のことを一切覚えていないという。

「……鳩ジイって確かあたしが小学校卒業した年にアパートで孤独死したんだよ。部屋で怪我をしたまま動けなくなって、そのまま餓死したって大家の息子が教えてくれたもん。発見されたときはミイラのように痩せこけてたんだってさ」



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