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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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お人形

 それは先稚児のまげに銀花をさした可愛らしい八重垣さんのお人形でした。とある有名な人形師の作だと聞いています。豪農だった祖父が姉に買い与えたもので、夭折した彼女の代わりに私が譲り受けました。

 お人形はガラスケースへ入れられ座敷の床の間で大切に飾られていましたが、子供のころの私はそのお人形のことがひどく怖かったのです。

 ご存知の通り八重垣さんは歌舞伎の演目に登場するヒロインで、その人形はつねに兜をささげ持っています。どうやら姉がその兜を壊してしまったらしく、お人形はいつもから手で虚空をつかんでいました。

 桃の節句になると我が家でも雛人形を飾ります。私が初節句に贈られた親王飾りはよく内裏雛の首がとれていました。たいていは座敷に転がっており両親からいたずらを疑われたものです。

 あるとき来客用の座布団をとりに座敷へ入りました。怖いのでなるべく人形のほうは見ないようにしていましたが、押入れのなかを探っていて見たこともない桐の箱をみつけたのです。振るとカチャカチャ音がして、蓋を開くとなかから前立ての折れた小さな兜が出てきました。

 そうか、お人形が夜ごと探し歩いていたのはこれだったんだな、と確信しました。

 やがて私が嫁ぐとき両親はお人形も一緒に持っていくよう勧めましたが、断りました。なので今も実家の床の間に飾られたままです。

 先日久しぶりに帰省してみたら、大学生の弟が飼い猫のミッキーを追い回していました。どうしたのか訊ねると、

「あいつ俺の大切なフィギュアの首どっかへ隠すんだぜ、もう頭に来てさ」

 無実の罪で追われるミッキーがちょっと気の毒です。



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