顔
港を一望する岬の突端に弁財天を祀ったお社があった。漁の安全を祈願して明治の終わり頃に建立されたものだ。そこの祠堂の脇には御手洗池という人造の池があって、夜中にその水を覗くと老人の顔が映ると言われていた……。
夏休み最後の夜、僕とユウジたち五人はそこで肝試しをやることになった。
刻一刻と深まる闇の中、僕たちは懐中電灯の明かりを頼りに古びた鳥居をくぐった。
御手洗池は子供が入っても膝まで浸かるくらいの浅い池だ。しかし闇に沈むその水面はまるで底なし沼のように黒く淀んで見えた。まずガキ大将のユウジが覗いた。みな緊張して息を飲んだ。しかし程なくして彼は、けけけと笑った。
「なんのことはねえ、俺の顔が映っているだけだ」
続いてケンタとヒロキも覗いた。
「ほんとだ、自分の顔しか見えねえ」
いよいよ僕たちの番となった。千秋とふたり、ぎゅっと手を繋ぎ合い夏草のすきまへ首をさし入れる。すると暗く張りつめた水のなかから、目をむいた老爺と老婆がじっとこちらを見ていた。
僕は悲鳴をあげ、千秋の手を引いて一目散に石段を駆け下った。
翌日、ケンタが車にはねられて死んだ。その十日後にはユウジとヒロキが海で溺れて死んだ。僕と千秋は生きた心地がしなかった。これはあの池を覗いた祟りに違いない。きっと次は自分たちの番なのだ。
とうとう恐怖に耐えきれず、僕たちはありのままを校長先生に話した。すると彼女は夜中に外出したことを叱った後で、こんな話をしてくれた。
「昔からあの池に映ると言われているのは、死ぬ直前の自分の顔なのよ」
そして優しく笑った。
「あなたたちは長生きするようね」