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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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もっか捜査中であります

 深夜の巡回が終わりデスクで日報をつけていると、ぼんのくぼから背すじをゾクッと悪寒が走った。慣れない環境のせいで風邪でも引いたかと舌打ちして、ふと顔をあげると交番の戸口に男が立っている。

「あの、なにか……」

 と言いかけて、げっとのけ反った。

「出る」とは聞いていたが、まさか着任そうそう出くわすとは思ってもみなかった。どう見ても生きている人間ではない。その証拠に、男はシャツのすそから数珠つなぎの内臓をひきずっていた。

「わだじを……」

 しゃべる口の端から血がポタタタタと床にたれる。俺は思わずイスから腰を浮かせた。

「ごろじだ犯人はまだづがまりまぜんが?」

 そのむかし、この交番のすぐ目のまえでひき逃げ事件があったという。折悪しく当直の警察官は不在で、しかもひどい雷雨であった。けっきょく遺留品は雨に流され目撃情報も得られないまま、捜査は打ち切りになったらしい。

 その犯人をはやく捕まえて欲しいと、男はうったえているのだ。

 俺は事務用デスクの引き出しをあけ、こういうときのために交番所長が用意してくれたメモを読みあげた。

「も、もっか捜査範囲をひろげ……各方面と連携しながら、ぜ、全力で捜査に取り組んでいる最中であります」

 こう答えると幽霊は去ると教えられていたが、はたして男は一礼してきびすを返すと、そのまま外の闇へフッとすがたを消した。

 俺は虚脱したようにイスへ腰かけた。

 もう二十年以上ものあいだ、ああして化けて出ているらしいが、たとえ犯人が捕まってもすでに公訴時効が成立して起訴はできない。

 その事実を知ったら彼は怒るだろうか……きっと怒るだろうな。



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