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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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ざしきわらし

 外では、秋の長雨がとうとうと庭木の枝を打っている。

 雨戸を立てきった座敷のうちでは、先ほどから読経が流れていた。

 その声が不意にやむ。

 法事で招かれていた常楽寺の住職が、そっと天井を振りあおいだ。

「だれぞ、わらし子でも遊びに来とるのすか?」

 雨だれにまじって、子供の走りまわる足音が聞こえてくる。

 祖母が静かに答えた。

「じづあ東京さ嫁いどった孫が、腹の子ば流しまして」

「そいづはお気の毒に……」

 住職は天井へ向かって合掌した。

「家に憑いたわらし子さ大切にすっど守り神になるというがら、せいぜい慈しんでおあげなんしえ」

「へえ、そのつもりでがんす」

 それきり住職は読経を再開したが、階上を駆けまわる足音はますますひどくなる。

 ぼくはそっと座を立った。

 戦前からつづく旧家なので、むやみに広くて昼間でも深閑としている。階段をのぼり終えると足音がパタリと止んだ。息を殺し廊下を進んでゆく。かつて姉が使っていた部屋のドアをあけると、そこは子供用の玩具で埋め尽くされていた。

「またこれだ……」

 ぼくはため息をついた。

 お供えする菓子や果物が床に食い散らかされ、祖母が買い与えた人形は首を引きちぎられている。

「まんづ元気なやろっ子だごど」

 と祖母は目を細めるが、ぼくは知っているのだ。

 東京の姉夫婦はもうずっと以前から別居中であること。

 姉の流産は人工中絶であり、しかもその子の父親がご主人ではないこと。

 ドアを閉めて階段をおりようとしたとき、背後からシュウウ、シュウウとこちらを威嚇するような息づかいが聞こえてきた。

 この家に住みつくのが、邪悪なモノでなければ良いのだが……。



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