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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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昆虫採集セット

 今ではもう見かけなくなったが、おれが小学生の時分には下校途中の路上によく露天商が屋台をだしていたものだ。ポン菓子、ひよこ、カタ抜き、どれもお祭りの夜店でふつうに売っていそうなものばかりだが、なかには怪しげな商品もあった。

 そのとき売られていたのは昆虫採集セットだった。

 虫の標本をつくるためのツールで、たしか五百円だったと思う。

 セット内容は、注射器、薬液、虫めがね、ピンセットなどで、赤い液が殺虫剤、青いのが防腐剤……のはずだが、箱をあけてびっくり。青い薬ビンには「蘇生剤」とラベルが貼られていたのだ。

 おれは、つかまえた蝶で実験してみることにした。

 じたばた暴れる背中へブスッ、赤い液を注入するとじきに動かなくなる。今度は青い液だ。おなじように注射して縁石へ乗せ、待つこと一分。あっ、動いた。と思うやたちまち息を吹き返し、ヒラヒラと空へ舞いあがった。

 面白い、面白い。

 バッタ、蜘蛛、コガネムシ、どれも赤い液で死んで、青い液を打てば生き返る。

 調子に乗ったおれは家で飼っていた金魚、カナリヤ、そしてついには柴犬のピコにまで手を出した。

 ピコはなにも知らずしっぽを振っていたが、赤い液を注射するとすぐに冷たくなった。あわてて青いほうを注射する。ムクッと身を起こしたピコは、突然もの凄い勢いで吠えかかってきた。

 わっ、ごめんごめん。と謝ったが、どうも様子が変だ。牙を剥いて、口の端からよだれを垂らしている。

 けっきょくピコはもとへは戻らず、おれは怖くなってその昆虫採集セットを捨てた。

 じつをいうとピコで成功したら、つぎは弟で試してみようと思っていたのだ。



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