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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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山刀伐(なたぎり)峠

 山刀伐峠はさびしい隘路だ。

 原生林のなかを縫うようにうねっている。ことに夜ともなれば、冥界へ踏み迷ったかと疑いたくなるほどにさびしい――。


 二年前の夏に怖い体験をした。

 夜更けて、赤倉温泉からの帰り道。県道二十八号を尾花沢方面へ向かう途中、通行止めにあった。

 見れば迂回路の案内が出ている。

 それは史跡のある古道で、滅多に車の通らない険路だった。

 車二台がやっと交差できるほどの狭い道を脱輪しないよう慎重に進んでゆく。

 と、右手の木立ちに明かりが見えた。それは松明の炎で、どうやら自分と並走しているらしかった。視線を前へ戻し、あわてて急ブレーキを踏む。行く手に、松明を持った大勢の人影が立ちはだかっていたのだ。彼らは一斉に襲いかかってきた。みるみる車体のあちこちがへこみガラスにひびが入る。わたしは頭を抱えてうずくまるしかなかった。

 どれくらい経ったのか、不意に周囲から人の気配が消え失せ、顔を上げるとあたりは静まり返っている。車を取り囲んでいたあの松明も見えない。わたしは急いで車を走らせた。

 押切に交番があったので駆け込んでみると、警官は「ああ、またか」という顔をした。

「たまにそういう体験をする人がいるんですよ」

 御覧なさい、と言って懐中電灯を車のほうへ向けた。あんなに打たれたにもかかわらず傷ひとつ付いていない。

 一応被害届を出すか訊かれたが、相手が「そういうもの」では仕方ないと思いやめた。


 山刀伐峠はさびしい隘路だ。

 木の下闇に埋もれながら細々とつづいてゆく。かつて山賊が跋扈して旅人を襲ったという伝承もあながち嘘ではない、そう思えてしまうのだ。



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