友香ちゃん
小学二年のとき。
クラスメイトの友香ちゃんという子が入院して、学校から父兄あてに緊急の回覧がまわってきた。
「友香ちゃん、しょうこう熱っていう伝染病にかかったんですって」
と母が教えてくれた。
猩紅熱は当時、コレラや赤痢と同じ法定伝染病として隔離治療が義務づけられていた。
翌朝ぼくはみなにそのことを話した。
「あいつ、でんせん病なんだってよ。からだじゅうブツブツができて、舌がまっ赤になるらしいぜ」
ぼくたちは「でんせん病」というおぞましい響きに幼い想像力をふくらませて、あれこれと噂し合った。
一週間ほどして友香ちゃんは元気に登校してきた。
見たところ、べつだん変わった様子はない。ただ母からは「しばらく友香ちゃんには近づいちゃダメよ」と言われていた。それは他のクラスメイトも同じだったらしく、彼女はクラスで孤立するようになった。
子どもの集団心理というものは残酷だ。やがてクラス全員が露骨に彼女を避けはじめた。
となりの席の子はわざと机を離したし、フォークダンスのときにも彼女とだけ手をつながなかった。
快活だった友香ちゃんはしだいに陰気な子になっていった。
ある日のこと。
給食がカレーライスだったので、みなで大はしゃぎした。やがて昼休みを終えたころ、友香ちゃんが急に立ち上がった。
「今食べたカレーに、わたしのつばとおしっこを入れたわよ。ふふふ」
ひとりの女子が口を押さえて走り出した。たちまちみなが後につづいて、トイレや手洗い場でゲエゲエ吐いた。
それ以降、友香ちゃんが学校へ来ることはなかった。
そしてぼくたちは、二度とカレーライスが食べられなくなった。