表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
67/100

空っぽの祠

 その祠は奥多摩の湖から御前山へと抜ける登山道のわきにあった。苔むした切妻造りの石祠で、下生えのヤブカラシに埋もれながらひっそりとたたずんでいた。こうした無名の祠をカメラに収めて歩くのが私の趣味である。

 ただこの祠、覗いてみると中身は空っぽだった。ふつう、こういった場所には石仏や道祖神などが収められているはずだが、なにか事情があって御神体だけ他所へ移したのだろうか。

 とりあえずブログへ載せるための写真を撮ることにした。アップが一枚と、遠景を一枚。最後にいつもの癖でパンパンと二回柏手を打った。

 ゴウッと強い風が吹いた。

 あたりに群生するブナの枝葉がザワザワと騒ぐ。

 と同時に、背後の草むらでガサゴソと動物の歩き回る気配を感じた。一瞬クマかなと思い身を固くしたが、どうやらもっと小さな生き物のようだ。たぶんキツネか野ネズミだろうと、さして気にもとめずわたしは山を下りはじめた。

 ガサガサ、ガサガサ

 音のぬしは、草むらから草むらへと身を移しながらずっと後をつけてくるようだった。だんだん怖くなり知らないうちに足を速めていた。突然、周囲からまるで波が押し寄せるようにザザザッと音が迫ってきた。私はパニックになり、リュックを放り出して走りはじめた。

 ふと前方に釣り人らしきひと影をみつけ、地獄に仏とばかり彼らのもとへ駆け寄った。

「助けてください……」

 今あったことを話すと、

「あの祠のまえで柏手なんか打っちゃダメだよ」

 と叱られた。

「空っぽの祠には得てして良くないモノが棲みつくもんさ。二年まえにも登山客が襲われて、そのひとは今も精神科の病院にいるって噂だ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ