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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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地下室の壁


「倉庫付きだと賃貸料もバカにならないし、それなら中古住宅を買い取って事務所にしたほうが得だと不動産屋に言われまして……」

 Sさんは埼玉県内で塗装業を営んでいる。そんな彼が新しく事務所にしたのは、築四十年ほどの木造家屋だった。

「内装はボロボロ、水回りもイカレてました。でもそこで生活するわけじゃないし、それにコンクリート造の立派な地下室がありまして。うちは有機溶剤入りの材料も扱いますから、保管場所にはうってつけだったんです」

 ところが、その地下室を倉庫として使いはじめて、おかしなことに気づいた。

「やたらと蟻が入ってくるんですよ。いえシロアリじゃなくて黒いやつです。塗装工事の材料しか置かないから、エサになりそうなものはないのに」

 防虫剤をまけば一時的に数は減るが、それでも壁をウロチョロ這い回る姿は消えなかった。

「まあ、食べ物を保管してるわけじゃないし、そのうち面倒になって放置してたんですが」

 あるとき、なにげなく蟻の動きを観察していたら、さかんに壁にあいた小穴へ出入りしていることに気づいた。穴は、鉛筆がようやく入るほどの大きさだ。

「さてはこれが出入り口になってるのかと顔を近づけてみると、つん、と腐敗臭がしたんです」

 さらによく見るとコンクリートから数本、人間らしき髪の毛が生えていた。

「うわあ、と思いました。警察へ通報するべきか迷ったんですが……うちは外国人労働者も雇っているでしょう。いるんですよね、急に所在の分からなくなるやつが。こっちだって痛くもない腹をさぐられたくはないし」

 Sさんは、近いうちに事務所を別の場所へ移すという。



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