招かれざる客
近ごろ眠れぬ夜がつづいている。
というのも、暗くなると頻繁に階下から物音が聞こえてくるのだ。
「きっと今夜もまた……」
と思っていたらあんのじょう、娘が泣きながら私の寝室へ駆け込んできた。毛布をはぐってベッドへ招き入れてやると、そのまま私の体にしがみついてくる。
「下にだれかいるよ。リビングをうろつく足音がするもん」
小さな肩を震わせ必死にうったえる。
「もうやだよ、この家呪われてるんじゃないの?」
「そんなことない、だいじょうぶだから」
なんとか娘を安心させようと、優しく頭をなでてやる。
この家は三年前、主人と離婚したとき慰謝料代わりにせしめたものだ。まだ三十年以上ローンが残っているけど、田舎の両親の援助も受けてなんとか返済している。
私にとっては、この家と娘だけがすべて。
得体の知れないやつらに荒らされてなるものか――。
階下をうろつく複数の足音が、やがて階段をのぼりはじめた。木のきしむ音がゆっくりと近づいてくる。早くもスンスンとすすり泣きをはじめた娘を抱きかかえ、ベッドのすみで頭から毛布をかぶる。
「いい? 絶対に声を出しちゃダメよ」
階段をのぼり終えた何者かは、まず娘の部屋に入った。
次いで、となりにある八畳間の和室。
いよいよこの部屋だ。ぐっと奥歯をかみしめる。
キィィ。
ドアが開いた。毛布を透かして、懐中電灯の光が無遠慮に室内を照らしているのが分かる。
やがて、押し殺したような男の声が言った。
「たぶんこの部屋だぜ、母子家庭の親子が心中したってのは」
「うえ、マジかよ……」
もう一度、娘の体をぎゅっと抱きしめた。氷のように冷たい、その体を……。