表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
62/100

招かれざる客


 近ごろ眠れぬ夜がつづいている。

 というのも、暗くなると頻繁に階下から物音が聞こえてくるのだ。

「きっと今夜もまた……」

 と思っていたらあんのじょう、娘が泣きながら私の寝室へ駆け込んできた。毛布をはぐってベッドへ招き入れてやると、そのまま私の体にしがみついてくる。

「下にだれかいるよ。リビングをうろつく足音がするもん」

 小さな肩を震わせ必死にうったえる。

「もうやだよ、この家呪われてるんじゃないの?」

「そんなことない、だいじょうぶだから」

 なんとか娘を安心させようと、優しく頭をなでてやる。

 この家は三年前、主人と離婚したとき慰謝料代わりにせしめたものだ。まだ三十年以上ローンが残っているけど、田舎の両親の援助も受けてなんとか返済している。

 私にとっては、この家と娘だけがすべて。

 得体の知れないやつらに荒らされてなるものか――。

 階下をうろつく複数の足音が、やがて階段をのぼりはじめた。木のきしむ音がゆっくりと近づいてくる。早くもスンスンとすすり泣きをはじめた娘を抱きかかえ、ベッドのすみで頭から毛布をかぶる。

「いい? 絶対に声を出しちゃダメよ」

 階段をのぼり終えた何者かは、まず娘の部屋に入った。

 次いで、となりにある八畳間の和室。

 いよいよこの部屋だ。ぐっと奥歯をかみしめる。

 キィィ。

 ドアが開いた。毛布を透かして、懐中電灯の光が無遠慮に室内を照らしているのが分かる。

 やがて、押し殺したような男の声が言った。

「たぶんこの部屋だぜ、母子家庭の親子が心中したってのは」

「うえ、マジかよ……」

 もう一度、娘の体をぎゅっと抱きしめた。氷のように冷たい、その体を……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ