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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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山の神


 俺がまだ営林署で働いていた頃だから、ずいぶんと昔の話だ。当時は林業が盛んでな、山仕事も泊まりがけでやったもんさ。

 あるとき造材の仕事で三ヶ月ほど奥秩父の牛王院平というところへ入った。五月半ばのことで裾野に生えるシャクナゲがまだみんな莟だったよ。

 造林小屋で仲間と寝泊まりしたが、ある日伐り出しから戻ってみると、貯木場のわきにあるケヤキの枝で人が首を吊っていた。林野庁の若い職員だった。すぐに官舎へ報せに走ったが、なにせ山奥のことだ、警察が来るのは翌朝だという。おかげで俺たちは夜っぴて死体の番をさせられることになったのさ。

 夜行動物が死臭を嗅ぎ回るから、火を焚いて交代で見張りについた。浴びるほど酒を飲んだけど全く酔えなかったね。あと一時間ほどで夜が明けるという頃、竜喰山のほうでドーン、ドーンと長胴太鼓を打つ音がした。なにごとかと思っていると、頭上の枝がバサバサと揺れ始めたんだ。

 松明で照らしてみて仰天した。なんと死体が手足を振り回して暴れているのさ。

「おうい死体が生き返ったぞ」

 慌てて小屋へ駆け込んだが、仲間と一緒に戻ってみると首吊りの縄が途中でぷっつりと切れていた。根元を探したが死体はどこにもない。代わりに獣の走り去るような音を聞いたんだ。

 警察じゃ熊の仕業だろうって猟師を集めてさんざ探し回ったけど、俺たちは山の神がやったに違いないと噂し合った。山の神ってのは女の神様で、気に入った男が山で死ぬと連れ去るっていわれてるからな。

 首吊りのあったケヤキは昭和の終り頃まで慎重に祀ってあったが、防火帯を作るのに邪魔で伐り倒してしまったよ。




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