表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
6/100

かむろ小路

 かむろ小路は、堀田左京一万六千石の上屋敷のそばにあった。

 九段坂から騎射馬場を下ったところ、後に斎藤弥九郎が練兵館をおこすあたりである。

 ちなみに「かむろ」とは「禿」と書くが、見習い遊女のことではない。

 ――河童である。

 かつてその辺りは、河童が出没して人を堀へ引き込む寂しい場所であった。

 寛永の終わりころの話。

 香坂某という御先手組の若いさむらいが、共も連れずにこの小路を歩んでいると、脇に女が一人うずくまっていた。夕刻の薄暗がりに、見ると頭から水をかぶったようにびしょ濡れである。

「これ、いかがした?」

 問うと、女はこわごわ顔をあげ震える声で言った。

「親類の家へ行った帰りにここを通りましたところ、いきなり河童があらわれて御掘へ引き込まれました。なんとか命からがら水から上がったのですが、どうにも腰が立たなくなってしまって……」

 どうやら武家の女房らしく、歯が黒く染められていた。

「それは難儀しているであろう、どれ、それがし御当家まで背負って進ぜよう」

 女は辞退したが、香坂がなおも言うと恐縮した面持ちでうなずいた。しからばと香坂、しゃがみ込んで女に背を向ける。

 そのとき。

 刀の柄が女の頭にコツンと当たった。瞬間、彼はハッとなった。結った黒髪に当たったにもかかわらず、カンと陶器を打つような固い音がしたからである。

 ――さては、こやつが河童か。

 まだ戦国の気風さめやらぬ時代である。

 飛び退りざま抜刀すると、裂ぱくの気合いもろともえいっと横に薙いだ。

 河童の首は、ポーンと飛んで板塀にドスンと当たった。

 その首は今も、善國寺の蔵の中へ安置されているという。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ