吉祥寺の占い師
吉祥寺駅前のハーモニカ横丁にすごい占い師がいるというので、冷やかし半分で行ってみた。どうせ「くもり時々晴れ、所により一時雨が降るでしょう」的な玉虫色の言動を繰り返すインチキ占い師に違いないと思った。
入り組んだ細い路地を探してまわるうち、のれん小路の片隅にぽつんと「八卦見」の屋台を見つけた。すでに十人近い客が列をなしており、私が来てしばらくすると、さらに十人ほどが後ろにならんだ。すごい人気である。
占い師はいかにも易者ふうの中年女性で、私を見るなり開口一番こんなことを言った。
「あら、おめでとう。あなた来年ご結婚なさるのね」
驚いた。なぜそんなことが分かるのだ。
「でも気をつけてね、あなたのお姉さんがそのことを大変妬んでいます」
今度はハズレ。私に姉はいない。
「いえすでに亡くなっていますが、たしかにあなたには三つ違いのお姉さんがいるのですよ」
私は両親が結婚した翌年に生まれている。ゆえに姉などいるはずがない。「いる」「いない」で口論となり、ついに彼女は「信じていただけないなら、お代は結構です」とそっぽを向いてしまった。どうやらプライドを傷つけてしまったようだ。
ところが帰ってこの話をすると、母の顔が見る見る青ざめていった。機嫌良くビールを飲んでいた父もテレビを消して書斎へ引っ込んでしまった。なんなのだ、この反応は……。
言いしぶる父を問いつめると、なるほど母には結婚する前に死産した子どもが一人いた。女の子で、実家に位牌もあるという。
これはお詫びをしなければと思い、後日占い師のもとを訪ねてみたが、すでに屋台は引き払われた後だった。