表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
44/100

油商人の右足

 人肉は酸味が強くて不味いというのはカニバリズムをタブー視するがゆえの謬伝であろう。

 たとえば支那には古くから喫人という風習があった。あくまでも食材として人間の肉を食おうというのだ。

 殷の紂王は自分をいさめる家臣を見せしめに料理して食べた。春秋時代の易牙という料理人は美食家である主君のために自分の息子を丸焼きにして供した。あの孔子でさえも人肉の塩漬けを保存食にしていたという。

 さて、時代は下って清朝のころ――。

 甘粛の金城に、李汝台という酒楼があった。そこでは人肉を「両足羊」と称して客に食わせていたのだが、ある油商人がその噂を聞きつけ足繁く通ってきた。彼は人間の足を煮詰めた羹を好んで食べた。自分のからだの悪い部分を他人の肉体より摂取して補おうという発想は、じつは秦代に編まれたある古典医学書が基となっている。馬車に轢かれて損じた自分の右足を、彼は他人の足を食うことによって再生しようと試みたのだ。やがて店に通い詰めるうち動かなかった右足もどうにか曲げ伸ばしができるくらいには回復した。

 そんなおり、彼は所用があって西安まで出掛けることになり、船で見るからに荒くれな男たちと乗り合わせてしまった。なるべく彼らとは関わらないよう注意していたが、男のひとりが油商人の前を通り過ぎようとしたとき、どういうわけか右足が勝手に動いた。

「なぜひとの尻を蹴る」

「お、お許しください……」

 そう言いながらも油商人の右足は、ふたたび意思とは関係なく男の尻を蹴った。

「ぐぬぬ、ふざけやがって」

 男は怒って柳葉刀を抜き、油商人の右足をばっさり切り落としてしまった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ