祖母のはなし
祖母が亡くなったのは小ぬか雨の煙る、ある秋の夕暮れどきのことだった。流行り風邪にやられて二日ばかり寝込んだあと、あっけなく息を引取った。そのとき家には私と二人の姉しかいなかった。両親は名古屋のほうへ出稼ぎに行っている。雨の降るなか、上の姉は隣町に住む親戚のもとへ、下の姉は町会長の家へとそれぞれ祖母の死を知らせに走った。私だけが家に残った。自分の祖母とはいえ、死体と二人きりになるのはあまり気持ちの良いものではない。上の姉からけっして線香を絶やすなと言われていたが、死体と向き合っているとだんだん気が滅入ってくるので、気もそぞろに家のなかをうろつき回っていると、なにやら仏間のほうで物音がする。様子を見に行って仰天した。布団へ寝かせていた祖母の死体がヌッと半身を起こしたのだ。けっして生き返ったわけではなく、その証拠に顔が紙のように白い。私はワッと叫んでその場に腰を抜かしてしまったが、祖母はこちらには見向きもせずズルズルと押し入れへ這い寄った。引き戸を開いて一心不乱になかを引っかき回している。しばらくして奥からなにやら埃まみれの文箱を引っぱり出したと見るや、蓋を開けて一枚ずつなかの手紙を引き破りムシャムシャと食べ始めたのだ。その形相のなんと凄まじいことか。よほど他人には見られたくない内容だったのだろう。私はなすすべもなく障子の陰にすくみ込んでガタガタと震えていたが、一枚残さず手紙を食べ終えた祖母はホッと安堵の息をつき、とても穏やかな表情になった。そしてもとの通り布団へ這入ると、静かに目を閉じてそれきり二度と動かなかった。