表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
4/100

古い浴室


「大家さんの記憶が正しければ、あそこが建てられたのは昭和四十年代の終り頃だそうです」

 今年大学院生になるEさんは、公園ベンチで鳩にエサをやりながら少し遠い目をして言った。

「なので浴室はもちろんユニットバスなんかじゃなく、タイル貼りの古い造り風呂だったんですけど……」

 彼が三年前まで暮らしていたアパートは、トイレと風呂が各部屋に備え付けられ、それで家賃が四万円以下という貧乏学生にとっては大変ありがたい物件だった。

「最近は、銭湯代もバカにならないですからね」

 ところが実際そのアパートへ越してみると、浴室で色々と不思議なことが起こった。

「夜中に水を使う音がするんですよ、誰もいないのに。それとタイルの上をペタペタ歩き回る気配があったり……」

 なかでも気味悪かったのが髪を洗うときで、あきらかに背後からジッと見られている感じがしたそうである。

「だからいつも髪は、パッパッと適当に洗って済ませていました。目をつぶるのが恐かったんです」

 しかしそんなある日、シャンプーが目に入ってしまい、お湯を出そうと慌てて蛇口を探っていたら――。

「突然、背後からヌッと腕がのびてきて、僕のかわりに蛇口を捻ってくれたんです。思わず悲鳴をあげましたね。だってそのとき、氷のように冷たい肌が僕の背中にペタッと触れたんです」

 彼はブルっと身震いして腕をさすった。晴天の七月だというのに肌がプツプツと粟立っている。

「……裸の、乳房でした、ちょっとたるんだ感じの」

 ずっと昔そのアパートでは老女の孤独死があったという。だた、それがEさんの住んでいた部屋なのかは分からないそうだ。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ