表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
39/100

肩を叩かれる


 春の人事異動で勤務先が変わり、急遽引っ越すことになった。独り身の気楽なアパート暮らしだが新生活を始めるには半端な時期だったらしく、ろくな賃貸物件が残っていない。それでも根気よく不動産屋をまわるうち、ある掘り出しものを見つけた。建物は新しく駅からもわりと近い。ただ家賃が妙に安いのだけが少し気になった。

 しかし引っ越してすぐにその理由が分かった。

 夜中にトイレへ入ると後から肩を叩かれるのだ。驚いて振り返るがもちろんだれもいない。どうやら、そこは「出る」部屋らしかった。不動産屋を問いつめてみようか迷ったが、他にこれといっておかしな現象が起こるわけではない。ふたたび部屋を探し歩くのはうんざりなので、しばらくは我慢して暮らすことにした。


 慣れとは恐ろしいもので、半年もすると夜中に肩を叩かれてもさほど気にならなくなった。

 そんなある日のこと。酒を飲んで深夜に帰宅し、そのままトイレへ駆け込んだ。気持ち良く用を足していると、不意にまたあの肩を叩かれる予感がした。酔って気が大きくなっていたせいだろう、私はタイミングを計ってその手をつかんでみた。

「やった」

 喜んだのもつかの間、すぐに私は後悔した。その手は氷のように冷たく、しかも指が異様に長かったのだ。もしかすると、かなり体の大きなヤツなのかもしれない。

 怖くて振り向けずにいると、背後の、少し高い位置から顔の近づいてくる気配があった。首筋にゾッとする冷たい息が吹きかかる。そして耳もとで、やや舌っ足らずな少女の声が嬉しそうに言った。

「ふふ、捉まっちゃった。じゃあ今度はわたしがオニになる番ね……」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ