表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
38/100



 部屋で宿題をしていたら弟と二人母に呼ばれた。

 母は一階の和室できちんと正座して私たちを睨んでいた。机のうえには縫いかけの浴衣と裁縫箱。

「あんたたち針で遊んだでしょう、どこへやったの? 危ないから早く返しなさい」

 私と弟は、正直に知らないと答えた。

「嘘おっしゃい、針がひとりでに無くなるわけないじゃないの!」

 母の剣幕に弟が泣きだした。じつは裁縫箱から針が紛失したのは今回が初めてじゃない。でも身に覚えのないことだったので、私たちは無実を主張しつづけた。母は疑念を抱きながらも「絶対に針を持ち出しては駄目よ」と念を押して私たちを解放した。


 夕食のとき、いつものように仏間へ膳を運んだ。そこには寝たきりの祖父がいて、祖母が付き切りで世話をしている。障子を開けようとしたら、その祖母のしわがれ声が聞えてきた。

「ほれ、わがまま言わんでちゃんと飲みなさい。お茶と一緒なら飲めるじゃろう?」

 祖父がげほっげほっと噎せ返る。どうやら薬を飲ませているようだ。

「さあ飲みなさい。飲むまでは絶対に許さんからね」

 げほっげほっ。

 なぜだか急に寒気を覚えた。聞いてはいけないものを聞いてしまったような。私は音を立てないよう注意して、その場から離れた。


 それから半年後に祖父は亡くなった。

 老衰だが、死ぬときにはかなり苦しんだようだ。

 焼き場で骨を拾っているとき、灰のなかにきらりと光るものを見つけた。縫い針だった。周りを見回してみたが、大人たちはだれもそれには気づいていないようだった。そっと祖母の様子をうかがう。

 目が合った。

 かすかに笑った。

 私は恐ろしくなってすぐに顔を伏せた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ