鬼の使い
親類の法事さあて、なしても山ひとづ越えなんねもんで、隣村さ通じる梵字川沿いの道とぼとぼ歩ったんども。三歳のとき風眼でまなぐ見ぇねぐなて、それでもなんとが杖つぎながら歩ったんども、ひとりだば心細ぐてはぁ……。
日もだいぶ傾いて、ひぐらし鳴いっだけど。
村ざかい越えだあだりで急にわらし子呼ばるもんだがら「何だけ?」て言たら、めんこ声のやろっ子「婆んつぁ、どさ行ぐ?」って訊ぐもんだがら、「八久和の親類の家さ行ぐとこだぁ」て答えだら「んだら途中で念珠寺さ寄て門前の小僧っこさ、このお供え物とどけて呉んねべが」て。「はてな、あそごは荒れ寺で住職居ねぁんども」て言たら「今は新しぃ住職入て、寺もなんぼがうづぐすぐなた」て笑うもんだがら「んだべが」って、藁半紙さくるまっだ饅頭受げ取てまだ歩ぎはじめだけど。
しばらぐ行たら托鉢の雲水ど行ぎ合たがら「念珠寺さ新しぃ住職入たなんが?」て訊ねだら「入らね」て。「そりゃおがすいな」って、今しがだ渡さっだ饅頭の包み見しぇだけど、ほうしたらその雲水たまげで「おめ今遭たわらし子、きっと鬼の子だかすんない」て言うもんだがら「なしてや?」て訊いだら、声震わして「おめさん大事そうにたがいでんなは、饅頭でねぐ人の胆だぁ」だど。もう腰抜がすほどたまげで、近ぐさあた猟師の家さわらわら駆け込んだんだず。
あっどで村の衆、念珠寺さ行てみだんども、お堂のなっがは人の骨どが髪の毛どが散らばてで、しんでぇ有様だったけど。やっぱす、お寺よぐよぐ構ねどくど、んまぐねぇなあ、なて村の衆、その日のうぢ大工呼ばて取り壊させだんど……。
(※ 方言監修・天崎剣先生)お忙しいとこ、本当にありがとうございました。