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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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うどの大木


 孝武帝のころ。

 洞庭湖のはるか南に位置する平陽県に、成周昌という下級役人がいた。彼は雲をつくような大男であったが、動きに愚鈍なところがあるせいで朋輩たちからうどの大木と馬鹿にされていた。仕事ではしくじりばかりして上役の不評を買ったが、温厚な人柄ゆえか庶民のとりわけ女子供からは人気があった。また彼には鳥や小動物と会話できるという不思議な能力があった。かと思えば人跡まれな深山幽谷へ足を踏み入れて怪しげな薬草を摘んできたりする。それゆえあの男はじつは仙縁浅からぬ者に違いないと、いつしか巷間で囁かれるようになった。

 ある年の正月のこと。

 慶賀の席で、成周昌が突然のっそりと立ちあがった。さては詩でも吟ずるつもりかと一同注目するなか、彼は「火が出た、火が出た」と騒いで渡殿へ飛び出し、板戸のすき間から小便をたれた。無礼であろうと座は色めき立ったが、日頃から彼の不思議な噂を耳にしている知事がなんとか皆をなだめてその場をおさめた。

 翌日その知事が役宅へ戻ってみると、昨夜ちょっとした小火騒ぎがあったと知らされた。なんでも厩から出た火が予想外の勢いで燃え広がり途方にくれていたが、そのとき西北の空よりにわかに大粒の雨が降りそそいでたちまち鎮火させたのだという。屋敷は一部を焼いただけで、使用人も家財も無事であった。

 妙な話もあるものよと知事は首を捻ったが、ふと辺りにただよう小便のにおいに気づき、昨夜の成周昌のおかしな行動に思い至った。

「さては道家の術を会得した者であったか……」

 それ以降、成周昌のことをうどの大木と馬鹿にする者はいなくなったという。




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