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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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目を洗う

 自分の目玉を洗う夢を見た。

 そこは、幼いころ両親とともに暮らしていた祖父の家だった。裏庭に大きな鶏小屋があり、あたりには鶏糞の匂いが充ちていた。その小屋を洗うのに使った井戸が母屋のわきにある。鋼鉄製の蓋から手押し式のポンプが突き出していた。

 私はまず手桶に水を汲み、それから右手の人さし指を左目の涙骨のあたりへずぶずぶと捩じ込んだ。痛みはなく、指は簡単に根元まで埋まった。あとはテコの原理を使って眼球を穿り出す。視神経で繋がっているはずの私の左目はいとも容易く眼窩から抜け落ち、ぽちゃん、と手桶のなかへ沈んだ。

 同じ要領で右目も取り出すと、それらを井戸水でざぶざぶ洗った。ひんやりして気持ちが良かった。きれいになった目玉をふたたび眼窩へはめ込んだところ、景色が逆さまになって見えた。どうやら左右あべこべに取り付けてしまったらしく、慌てて入れ換えようとしたところで、目が覚めた……。


 ブラインドのすき間から朝日が差し込んでいた。ゆっくりと身を起こす。となりに男が寝ていた。その惚けた寝顔がやけに鮮明に見えた。付き合い始めてまだ二ヶ月と経っていないが、昨夜この男からプロポーズされた。そして彼は結婚するにあたり、新事業を始めるための借金の保証人になってくれないかと頼んできた。夫婦になるならそれくらい構わないと思ったが、しかし今はっきりと分かった。この男は、保証人にしたあとで私を捨てるに違いない。

 ソファーに脱ぎ散らかしていた衣服を身に付けながら、もう一度男の顔をよく見た。

 こんな顔だったんだ……。

 私は合鍵をくずかごへ捨て、その部屋を後にした。


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