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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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洗面台の鏡


 我が家の洗面台はキッチンの奥にあり、大きな茶箪笥と向かい合わせになっていた。ゆえに鏡をのぞくと、茶箪笥にはめ込まれたガラス戸を通して無数に映りこんだ自分の姿が見える。

 つまり合わせ鏡になるのだ。

 ある夜その洗面台で歯を磨いていると、鏡のなかに延々と映りこむ自分の姿に妙な違和感を覚えた。なにか変なものを見たような気がしたのだ。よく目を凝らし注意深く観察してみる……。

「あっ」

 思わず声を上げてしまった。ずらりと並ぶ自分のなかで一人だけ妙な動きをするものがいたのだ。

 そんな馬鹿な……。

 目の錯覚だと思いもう一度よく確認してみる。間違いない、一人だけもぞもぞと動いているやつがいる。そいつは私から数えて十三番目の位置にいた。そしてどうやら十二番目の私へ向かってなにかを囁いているようだった。あまりにも奇妙な出来ごとに足が震えた。すると今度は十二番目の私がその一つ前の私へ向かってなにかを囁きはじめた。さらにそいつも自分の前にいる私へ……という具合に、まるで伝言ゲームのようにメッセージを順送りにしていた。しかもその動きはどんどん近づいてくるのだ。早く逃げなければ、そう思うのだがどうにも足がすくんで動けない。そうこうするうち、ついに私のすぐ前にいる自分が伝言を受け取ってしまった。

 次はいよいよ私の番だ。

 鏡面から、ぬっと自分の顔が突き出してくる。

「……おまえ目玉が黄色いぞ、肝臓の病気には気をつけろ」

 とうとうその場で腰を抜かしてしまった。

 後日、病院へ行ってみると医者に肝硬変の一歩手前だと言われた。もう少し発見するのが遅ければ手遅れだったらしい。



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