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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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ヤコブ


 久しぶりに玄関先を掃除していたら、表札のすみになにか落書きしてあるのを発見した。マジックペンで書かれたその小さな文字は、こう読めた。


 SW8~18R


 どうも子どもの悪戯とは思えない。少し気味悪かったので、近所に住む姉に電話してみた。

「それは、訪問販売員が付けてゆく目印よ」

 姉は結婚するまで保険のセールスをしていたので、そういうことに詳しかった。

「Sは一人暮らし、Wは女性、Rは留守、数字は住人が不在にしている時間帯ね」

 飛び上がるほど驚いた。まさかそんな個人情報が玄関わきの表札のすみに堂々と書かれていたなんて。空き巣狙いにでも見られたら大ごとだ。急いできれいに拭き消した。

 ところがしばらくして仕事帰りに覗いてみると、また新たな文字が刻まれていた。


 30DWKKKム


 姉によると、訪問を三回も断った三十路の独身女でしかも結構ムカつくやつだった、という意味らしい。頭にきた。私はまだ二十九だ。それに勝手にやって来てムカつくとはなにごとか。

「警察に相談してみる」

「そんなことしたってムダよ。それより訪問販売が二度と来なくなる秘密のおまじない教えてあげるわ」

 恐らくは冗談に違いないと思ったが、藁にもすがる思いで聞いてみた。それは目印の代わりに聖人の名を記しておくというものだった。


 ヤコブ


 ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」にも登場するキリストの十二使徒の名である。ところが神の奇跡だろうか、それ以来訪問販売がぴたりと来なくなった。不思議に思って訊ねると、姉は笑いながら種を明かしてくれた。


 ヤ……やくざ

 コ……怖いひと

 ブ……金融機関のブラックリストに載っている




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