なめこ太郎
信州は伊那の蛇峠山に百太夫を祀った社あり。いつの頃よりかそこのご神木の根元に一本のナメタケ生えたり。陰茎のごとくに隆々とした姿なり。麓の村の者これを見てきっと神霊宿りたる尊き物に違いなしと結界はりめぐらし、夫婦和合、子孫繁栄の神として慎重に祀りたれば、これをナメコ様という。あるとき在所の土豪の跡取り息子に嫁来たり。美しく気立てよき娘なりしが夫衆道に熱上げたるなればいっかな肌合わそうとはせず、家の者これをたいそう憂えたり。子宝かなわざれば里へ返すべしと言いしところ娘たいそう悩みて、夜な夜なナメコ様に願掛けたり。満願叶ってようよう娘孕みたるに夫これを訝しんで責めたり。事の次第知りて、其は我の子にあらずと夫たいそう怒りついに娘を山へ逐いたり。村の者これを憐れみ山中の醜屋にて破れ菰かけ匿いしところ、いよいよ産み月となりて娘気狂いになれり。そのまま山中へと隠れたるに山犬にでも喰われたるべしと諦めしところ、ある夜山の頂より元気なる産声山々に谺せり。さては魔性の子産みしかと夜明けてより村の者打ち揃いて山中深く入りたれば、娘一人大岩の上にて倒れ臥しおり、見ればすでに血荒れにて事切れてありたり。かたわらに醜き嬰児の亡骸あり。ぜひなしとてそこに打ち捨てたるに、夜な夜な赤子の声にて泣きたれば淋しきこと甚だしかるなり。村の者たいそう恐れてこれを持ち帰り、尹良大神の首塚のそばに埋めて丁重に祀りたり。やがてその傍らにありたる古木より見事なナメタケ生じ出でたり。人々これをナメコ太郎と呼びて、猿田彦神の眷属なるべしとて後々まで信仰せりという。