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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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におい


 ひとくちに霊感といっても色々ある。

 霊そのものが見えるという人もいれば、なんとなく気配を感じる、あるいは姿は見えないけれど声が聞えるという人まで様々だ。

 私の場合は、においだった。

 近しい人が亡くなると、そのにおいを嗅ぎ取ることができるのだ。

 ピアノの先生が事故で亡くなったときには一日じゅう彼女の香水のにおいがしたし、学生食堂でカレーライスを食べながら「なんだか機械油のにおいがするね」などと言っていたら、町工場を経営する祖父が心臓発作で倒れたと報せがあった。徳島に住む従弟が火事で焼け死んだときには、あまりの悪臭にしばらくご飯が喉を通らなかった。

 とにかく場にそぐわない不自然なにおいを嗅ぎ取ったら、それは虫の知らせに違いないのだ。


 その日は、穏やかな小春日和だった。

 授業中うとうとしていると、なにやら良いにおいが漂ってくる。ふんわりと甘い、お菓子のようなにおいだ。調理実習でケーキでも焼いているのかな? それとも裏のパン屋から風に乗って運ばれてくるのだろうか?

 なんだか得した気分になり、大きく息を吸い込んだ。

 とたんに涙がこぼれてきた。

 なぜだろう、無性に懐かしいような、優しいような、それでいて少し切ないような。

 おそらくそれは、私のよく知るにおいに違いなかった……。

 学校を終えて帰宅すると、家の中がバタバタしていた。見ると、母は目を真っ赤に泣き腫らしているし、父もどうやら会社を早退したらしかった。なにごとかと尋ねると、先年嫁いだ姉の生後まもない娘が亡くなったという。

 育児疲れのため、乳をやりながらつい居眠りをし窒息死させてしまったのだった。




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