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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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慰問袋


「これやるよ」

 戦友の葉山が、布製の犬のマスコットを投げてよこした。さっき配給された慰問袋に入っていたものだ。

「お守りにしろ」

「バカ、くれた人に悪いだろ」

「いいよ、俺は申年の生まれだから」

 そう言って笑った。予科練のころから一緒だが、彼のこんなに楽しそうな顔を見るのは初めてだった。

「そっちは何が入ってる?」

 彼が覗き込むので、袋から中身を取り出してみた。石鹸、胃腸薬、腹巻き、それに飴玉が入っていた。同梱された手紙には、綾瀬国民学校初等科五年、平松フミエとあった。

「女の子からだ。兵隊サン、イツモアリガトウ、だとさ」

「良かったな」

 二人、肩を叩き合って笑った。


 翌朝小隊長から集合がかかった。沖縄近海へ向けて出撃するという。特攻だった――。

「やっと俺たちの番か」

 もとより生きて帰る気はなかったし、死んだ仲間の仇も討ちたかった。みんなまだ若かったのだ。

 戦争とは無縁の青く澄んだ空の下、出撃する仲間たちと最期の盃をくみ交わす。真っ白いマフラーが風にたなびいていた。

 突然、暖気運転中だった俺の機から黒煙が上がった。極度の物資不足で故障機をむりやり修理して乗っている。エンジンが保たなかったに違いない。

「ちくしょう、こんなときに」

 けっきょく俺は、次々と離陸してゆく零戦を悔し涙を流しながら見送った……。


 その後千歳基地へ転属となった俺は、そこで終戦をむかえた。

 復員して母親に例の犬のマスコットを見せると、なにを思ったのか彼女はその腹を裂き始めた。

「お前が生きて帰ってこれたのは、これのおかげだよ」

 中に入っていたのは、折り畳まれた摩利支天の護符だった。




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