表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
26/100

子供たちのざわめき


 盛岡の営業所で単身赴任したときの話。

 社宅での独り暮らしにも慣れそろそろ妻の手料理が恋しくなり始めたころ、ある奇怪な体験をした。

 夜中にふと目を覚ますと、窓の外を大勢の子供たちが通り過ぎてゆく気配がするのだ。それはまるで遠足へ向かう行列のように嬉々としてふざけ合い、終始楽しそうなざわめきに満ちていた。

 こんな時間にどこへ行くのだろう、星の観察でもするのかな?

 不思議に思ったが、さして気にもとめないまま再び眠りについた。

 翌朝そのことを同僚に話すと、彼は声をひそめて言った。

「悪いことは言わない、他所へ越したほうがいい」

 理由を聞いたが教えてはくれなかった。

 その後もたびたび同じことがあり、さすがに気味悪くなった私はそこを引き払うことに決めた。

 新しいアパートも見つかり、その部屋で寝るのも今日が最後という夜――。

 いつものようにざわめきが聞える。

 ああ来たな、と思っていると、なぜだかその日に限って音はどんどん近づいてくる。

 来る、来る、と息を殺して待っていると寝室のカーテンがひるがえり、ベッドのあちこちが足の踏む形にへこみ始めた。間違いない、子供たちは今私が寝ている上を通過しているのだ。

 ぎゅっと目を閉じると不意に耳元で囁き声がした。

「一緒に行こ」

 驚いて首を横に振る。チッという舌打ちが聞こえ、今度は手首をつかまれた。予想に反して枯れ枝のような手だった。私は悲鳴をあげベッドから転がり出た。

 ざわめきが止む。

 見ると、部屋のなかには痩せさらばえた大勢の老人がいた。目の前に立つ老婆が、鼻からチューブをぶら下げたまま歯のない口で笑った。

「一緒に行こ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ