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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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男湯


 今どき男尊女卑でもないだろうが、会社の慰安旅行で訪れたその旅館は、男湯にくらべて女湯がえらく貧相だった。

「なんかムカつくわね、こういうの」

 部屋にあった施設案内のしおりを見てユミが頬を膨らませる。

「男湯はこんなに豪華な岩風呂なのに、あたしらのはなによ、今どき五右衛門風呂ってか?」

 面白みのない円形の浴槽は、四人も入れば身動きが取れないほどに狭かった。

「どうせ男どもは宴会でつぶれちゃうんだし、夜中にこっそり入ってやろうか、男湯に」

「やめときなよ、他のお客さんだっているし」

「大丈夫よ、うちらの他はお年寄りのグループばっかだもん」

 けっきょく私とユミは宴会を終えた深夜、こっそり男湯へ忍び込んだ。

「やった、誰もいないね」

 浴室はがらんとしていた。私たちは手早く体を流し、岩風呂にどっぷりと肩まで浸かった。

「ふう、極楽極楽――」

 湯気でかすんだ室内に、ちょろちょろとお湯の湧き出る音だけが反響している。

「風流だわあ」

「……あれ?」

 お湯のせせらぎに混じって人の声がするような気がした。それは確かにこう聞えた。

 オンナダ、オンナダ、オンナダ、オンナダ……

 ――女がいるぞ

「ちょっとなにこれ?」

 そう思った瞬間、私たちは湯船の底に体を引きずり込まれた。

「ひっ」

 ごぼごぼ……

 そのまま意識を失い、翌朝洗い場で倒れているところを清掃員に発見された。


 驚いたことに、旅行から帰ってみると二人とも妊娠していた。

 もちろん私は堕ろしたが、カトリック信徒だったユミは会社を辞めてその子を産んだ。

 死産だった。

 医者に亡骸を見たいと頼んだが、ついに見せてもらえなかったという……。




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