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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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怪物ちゃん


 流しの屋台も人力車という時代ではないらしい。

 その飲み屋もダイハツのワンボックスを改造したものだった。やっているのはゴマ塩頭のヒラメみたいな顔をしたオヤジ。よく陽に焼けて、年はそろそろ還暦といったところか。いつもワンサイズ大きめのだぼシャツを着て、派手なスカーフを首に巻いている。安いわりには酒も食い物も上等で、もっか単身赴任中の私は、そこで酒を飲むことを楽しみにしていた。


 その日も、オヤジの下世話なゴシップを肴にして一人で飲んでいた。

「この向こうにちょっとした歓楽街があるの知ってるかい?」

「環七を越えたあたりでしょ」

「そうそう。その雑居ビルの地下に、ララって名前のオカマ・バーがあるんだけど」

 オヤジの話はいつも面白くて、つい酒がすすむ。

「昔、その店に三十過ぎてからオカマになった変わり者がいてさ、これが店ではいつも一番人気で」

「へえ」

「でも本人は知らなかったのさ……」

「なにを?」

「客のあいだで秘かに怪物ちゃんと呼ばれていたことを」

 どんな器量だかうかがい知れる話だ。

「それを知ってショックだったのか、ある日アパートで首吊っちゃってね」

「……嫌な話だなあ」

 酒が不味くなってしまう。

 その時ふと、なぜだかオヤジの首に巻いてあるスカーフが気になった。

「そのひとは……亡くなったんだよね」

「どうして?」

「いや、なんとなく」

 バカな妄想だ。酔いが足りないせいか……。

「焼酎もう一杯」

「へい」

 しかしオヤジが足下にある一升瓶を取ろうと身をかがめた瞬間、私は見てしまった。

 だぼシャツの襟からのぞく……胸の谷間を。


 以来、怖くてその屋台へは行っていない。




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