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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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守屋の矢


 伊那平の藤澤村に安彦という猟師がいた。あるとき彼が山へ入ると、みしみしと木をなぎ倒す音が聞こえてくる。不審に思って音の正体を探ると、それは大木を横たえたような大蛇だった。見ると、峰辺に祀った御左口様の祠へと向かっている。不敬なやつ。安彦は山刀を振りかざし、その大蛇の首を刎ねてしまった。

 帰ってその話を皆にすると、村の年寄りどもが騒ぎはじめた。

「きっとその蛇はみしゃぐじ神の使わしめに違いない。なんて罰当たりなことを……」

 村人たちは大蛇の亡骸を懇ろに弔った。

 ところが翌日から、池の水をひっくり返したような土砂降りが続いた。きっとこれは御左口様の祟りに違いない。皆は口々に噂し合った。ついには天竜川があふれそうになり、村人たちは仕方なく龍神に生け贄を捧げることにした。選ばれたのは、今年八つになる安彦の娘だ。村の者はこぞって彼の家へ押し掛けると、泣いて懇願する安彦と妻を取り押さえ、幼い娘を連れ出した。そして荒れ狂う天竜川へ沈めてしまったのだ。

 翌朝、空は嘘のように晴れ渡り、安彦と妻はいつの間にか姿を消していた。


 その翌年から、村で生まれた子どもが八つになると、山から鬼が下りて来てさらってゆくようになった。あの鬼はきっと安彦に違いない。退治しようと村の者が何人も山へ入ったが、ついに戻った者はいなかった。

 困った村人たちは、諏訪大神の力にすがることにした。やがて大社から神人が使わされ、通力のこもった矢でみごと鬼を射殺した。

 そのときの矢を埋めた場所が現在の守屋神社である。

 今でも雨の日が続くと、地元の年寄りはそこへお参りに行くそうだ……。




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