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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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アパートの改修工事


 長年住宅の改修工事などを手がけていると、いわゆるいわく付き物件に出くわすことがある。

 ――そのアパートの場合は、焼身自殺だった。

「ほら、その辺り」

 不動産屋のおやじが、私の足下を指して言った。

「ちょうどその辺りに焼死体が転がっていたんだ」

 思わずその場から飛び退いた。

 床といわず壁といわず、全ての面がコンクリートむき出しの状態で黒く煤けている。おまけに不快な臭いが充ちていた。ここで独り暮らししていた女性が失恋の果てに焼身自殺したのだという。あまり気持ちの良い話ではないが、しかしこのご時世、仕事を選んでいる余裕などない。

「それでもやるかね?」

 そう訊かれ、私は二つ返事で工事を引き受けた。


 ところが実際着工してみると、なかなか思うように進まなかった。大工がまったく残業したがらないのだ。

「あの部屋はどうも気持ちが悪い、いつも髪の焼ける臭いがするし女のうめき声も聞いた。なにかあるんじゃないのか?」

 このぶんでは予定した工期に間に合わないと思い、私はよく地鎮祭に来る神主にお願いしてお祓いしてもらうことにした。

 彼はまず人型に切り抜いた紙を北東のすみへ置くと祝詞を上げた。するとその紙からぶすぶす黒煙が上がった。

「うっ」

 髪の焼けるひどい臭いがした。

 祝詞が終わると、神主はそれを塩と混ぜて水道へ流した。

「祓除はこれで終わりだが、どうやらここは鬼の通り路らしい。工事はもう止めなさい」

 その後会社でさんざもめたが、結局その工事は取りやめとなった。

 聞いた話だと、うちの後を受けて入った業者がそこで死亡事故を起こし、今は手つかずのまま放置されているという。




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