雨のなかのチロ
公園へむかう坂のとちゅうに、その家はありました。
白いかべと、赤いやね。
きょ年までわたしたち家族が暮らしていた家です。
そこには大きな庭があって、花だんのわきに手作りのお墓が立っています。
わたしが飼っていたスピッツのお墓です。
名前はチロといって、まっ白い毛なみがふわふわの小さくてかわいい犬でした。
わたしは今日もこっそり、そのお墓のようすを見にきたのです。
庭では知らない男の子が遊んでいて、植え込みのかげからのぞくわたしに気づくと大声でさけびました。
ママ、へんな子がいるよ!
わたしは、あわてて逃げました。
どれだけ走ったでしょう、いつのまにか降りだした雨に気づいて立ち止まると、後ろから犬のなき声がしました。
わん、わんっ
ふりかえると、なにか黒いものがこっちへむかって駆けてきます。
どう見てもドロのかたまりでした。
でも、わたしには分かります。
それはチロのかたちをしていたのです。
チロ!
わたしは、うれしくて泣きそうになりました。
だってチロが生き返ったんですもの。
チロ、チロ、わたしに会いにきてくれたのね!
わん、わんっ
でもなんだか動きがへんでした。
チロはよろよろとよろけて、いまにも倒れそうなのです。
そうです、降りしきる雨にドロでできたからだが溶けはじめているのです。
たいへんだあ!
わたしはあわててチロのもとへ駆けよると、服がよごれるのもかまわず抱きしめました。
チロッ、チロッ!
でも雨にうたれたチロのからだは、わたしの腕のなかでぼろぼろとくずれ、あとには小さな骨がいくつも、いくつも、まるで花火のもえかすみたいに散らばっているばかりでした……。