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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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父の客


 久しぶりに田舎で暮らす両親のもとを訪れると、母がえらく疲れた顔をしていた。

 具合でも悪いのかと訊くと、そうではないらしい。

「近ごろ夜中になると、父ちゃんを訪ねて大勢のお客が来るけん、気になってよう寝れんのよ」

「非常識な客じゃのう、一体どこの誰な?」

「それが父ちゃんに訊いても、さっぱり要領を得んもんじゃけえ、往生しとるんよ」

「けど、そがいに大勢で来るんじゃったら、顔くらい合わすじゃろ?」

「不思議なことに、一度も、誰とも顔合わせたことないんよ。なんでじゃろうね?」

 そう言って母は首を捻った。おかしな話もあるものだ。当然父にも問い質してみたが、「古い友だちじゃ」の一点張りでそれ以上なにも語ろうとはしない。私はその日のうちに帰るつもりでいたのを、急遽一晩泊まってゆくことに決めた。


 夜中の二時過ぎ……。

 階下を、大勢の人が歩いてゆく気配がして目が覚めた。

 ――来たか。

 そっと部屋を抜け出す。客はどうやら父の書斎に集まっているようだった。私は足音を忍ばせて近づき、なかの様子を探ろうとドアへ耳を押し当てた。と、突然それまでざわついていた人の気配が霧散し、代わりに不機嫌そうな父の声が聞えた。

「そこで何しちょるんなら?」

「いや……お客さんに挨拶しようか思うて」

「アホ、お前が来たけん、みな帰ってしもうたわ」

 見ると、書斎のなかでは父一人がぽつねんと佇んでいた……。


 それから三年後の秋に、父は亡くなった。田舎ということもあって、葬儀には近隣から多くの弔客が訪れた。ただ母が言うには、そのなかに明らかに見たこともない人が、かなりの数まじっていたらしい。



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