父の客
久しぶりに田舎で暮らす両親のもとを訪れると、母がえらく疲れた顔をしていた。
具合でも悪いのかと訊くと、そうではないらしい。
「近ごろ夜中になると、父ちゃんを訪ねて大勢のお客が来るけん、気になってよう寝れんのよ」
「非常識な客じゃのう、一体どこの誰な?」
「それが父ちゃんに訊いても、さっぱり要領を得んもんじゃけえ、往生しとるんよ」
「けど、そがいに大勢で来るんじゃったら、顔くらい合わすじゃろ?」
「不思議なことに、一度も、誰とも顔合わせたことないんよ。なんでじゃろうね?」
そう言って母は首を捻った。おかしな話もあるものだ。当然父にも問い質してみたが、「古い友だちじゃ」の一点張りでそれ以上なにも語ろうとはしない。私はその日のうちに帰るつもりでいたのを、急遽一晩泊まってゆくことに決めた。
夜中の二時過ぎ……。
階下を、大勢の人が歩いてゆく気配がして目が覚めた。
――来たか。
そっと部屋を抜け出す。客はどうやら父の書斎に集まっているようだった。私は足音を忍ばせて近づき、なかの様子を探ろうとドアへ耳を押し当てた。と、突然それまでざわついていた人の気配が霧散し、代わりに不機嫌そうな父の声が聞えた。
「そこで何しちょるんなら?」
「いや……お客さんに挨拶しようか思うて」
「アホ、お前が来たけん、みな帰ってしもうたわ」
見ると、書斎のなかでは父一人がぽつねんと佇んでいた……。
それから三年後の秋に、父は亡くなった。田舎ということもあって、葬儀には近隣から多くの弔客が訪れた。ただ母が言うには、そのなかに明らかに見たこともない人が、かなりの数まじっていたらしい。