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なめこ太郎/666文字奇譚  作者: 閉伊卓司
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独り言


「あなた近ごろ独り言が多いわね」

 妻にそう言われた。

 身に覚えのないことだったので少し驚いた。

「車を運転してるときなんか、特にすごいのよ」

「ほう、俺は一体どんなことを喋ってるんだい?」

「さあ? 終始ぶつぶつとつぶやいてるだけだもの……」

 面白い。

 無意識のうちに口走る言葉とは、一体いかなるものか。

 俺はボイスレコーダーをグローブボックスへ放り込むと、日が暮れるまで車を走らせてみた。そして帰宅後、はやる気持ちを抑えてまず風呂に入り、そして缶ビール片手に書斎へこもった。

 レコーダーの再生ボタンを押す。

 まず自動車の走行音、そしてウィンカーの明滅する音……、しばらくして第一声が飛び出した。

(ひき殺すぞ、ばばあ)

 我ながらなんて乱暴な。思わず苦笑がもれたが、その声をかわきりにレコーダーのなかの俺は堰を切ったように喋り始めた。

(早く渡れよくそガキどもが、ちんたら歩いてっとはねちまうぞ。やい、そこのじじい、死に損ない、いっそこのまま引導渡してやろうか)

 ビールを飲みながらにやついていた俺も、そのうちにだんだんうすら寒くなってきた。この声のぬしは本当に俺なのか?

(どいつもこいつもバカにしやがって。見てろよ、今に全員ぶっ殺してやるからな。道具はそろってるんだ、ナタに包丁に皮手袋、顔を隠すための目出し帽……)

 いやな予感がして、とっさに文机の引き出しをあけてみた。はたしてそこには今聞いた殺人の道具がすべて揃っていた。これは一体……。

(おっと、返り血を避けるためのレインコートを買ってなかったな)

 そして俺は言った。

(おい聞いてるか、忘れずに買っておけよ)




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