クリムからの授業(後篇)
「――じゃあ、次はアイスの魔法よ。これもあたしが見本を見せるわね」
クリムは再び俺の隣に立つと、片手で杖を持ちアイスの魔法を唱える。すると杖から冷気が次々と飛び出してきた。
「アイスの魔法はこんな感じよ。じゃあ次はあんたが出してみて。…念のため、離れてからやって頂戴」
「わ、分かったよ」
俺は二人のいる場所から少し離れ、片手を前にかざし呪文を唱える準備に入る。
「――アイスッ!!」
俺がそう唱えた瞬間、片手から先ほどよりも勢いの強い冷気が飛び出してきた。…さ、寒いっ!見ているだけでも凍えそうだ。
「いいわ、その辺にして」
クリムは俺に魔法を止めるよう指示を出す。何とか魔法を出すのを止めると、俺は寒さのあまりに自分の身体を震わせた。
「だ、大丈夫ですか?ナオトさん」
「あ、ああ…。これじゃあアイスというよりブリザードって感じだけどな…へっくしょん!」
思わずくしゃみも出てしまった。…これも迂闊に出すべきもんじゃないな。
「やれやれ…。とにかく次の魔法を教えるわ」
俺はクリムから色々な魔法を教わった。周囲に風を巻き起こす「ウィンド」や水をシャワーのように放出させる「ウォーター」など…。彼女曰く、どれもこの世界の基本魔法だそうだ。
魔法はどれも出せるようにはなったが、やはり極端に威力の大きい魔法しか出てこない。ウィンドは暴風を巻き起こすし、ウォーターはビームのような勢いが強い水が飛び出してくるし…。二人は俺が魔法を出すたびに驚いた反応を見せていた。
――やっぱりこの『神の力』という物は恐ろしいな。ロゴスが言ってた通り、この力を上手く扱わないと世界を滅ぼす可能性がある。そんな力を手違いで渡してしまうなんてロゴスは酷い神様だよ、まったく…。まあ約束を守るって決めた以上、やるしかないけど。
「…改めて見ると、あんたって本当に極端な魔法しか出せないのね。威力が大きいのは悪い事じゃないけど、それを制御出来なければ何の意味もないわ」
「ご、ごめん…」
「しばらくの間は本職の魔術師であるあたしがフォローしてあげるから、それまでしっかり練習を続けておくようにね。分かった?」
同じ魔法を扱えるクリムがフォローしてあげるのは助かるな。クリムは魔法を扱える家系で生まれ育った人と言ってたから、心強く感じる。…しかし、魔法の練習を続けろと言われてもな。『神の力』って人間が制御出来るもんなのだろうか?でもその事をクリムに伝える訳にはいかないしな…。
「…分かったよ。それからありがとう、クリム。助かる」
「あたしは単に、あの決まり事を守る為に言っただけよ。それより魔法を撃ち続けて疲れたでしょ?あそこの木の下で休むわよ」
俺たちは近くにある大きな木の下で休む事にした。ちょうど木陰に当たっているので涼しく、休むにはいい場所だ。
「たまにはこうやってのんびりするのもいいもんね」
「ふふ、そうですね。いつもは依頼を受けてあちこち歩き回っていますから、のんびりする時間はあまりないですので」
「…ちょっと聞くけどさ。二人はたまに仕事を休んだりとかはしないのか?」
「ないわね。あたし達は毎日、身体を動かさないと気が済まないタイプだから。逆に何もしていないと身体がウズウズするのよ」
そうなのか…?うーん、俺には理解できないな。何もしないでのんびり過ごすのも悪くないと思うけどなぁ。まあそこは人それぞれって奴か。
「…ところでクリムさん。こうやって木の下で休んでいると、昔の事を思い出しません?」
「昔?――ああ、あいつがいた時の事ね」
「あいつって?」
「私たちの他にもう一人、幼なじみがいたんです。その人とはよく外で遊んだり、冒険者になる為の訓練とかしていたんですよ」
「幼なじみ?腐れ縁の間違いでしょ」
「その言い方は良くないですよ、クリムさん。…それで、その人は二年前にもっと強くなると言って旅に出たんです」
「あいつはあたし達の中では一番弱かったもんね。あたしは冒険者の資格がないんじゃないってあれほど言ったけど、あいつは絶対に諦めない主義だから…」
「でも、どんな事があっても諦めようとしない気持ちは大切だと思いますよ?クリムさん」
「そうかしらねぇ」
どうやらこの二人と仲良くしていた人物が一人いたようだ。一体どんな人なんだろう?
「なあ、その人は今どこにいるんだ?」
「さあね。でも旅に出る前、あいつはウェスターンに行くとか言ってたわ。今もそこにいるんじゃないかしら?」
「ウェスターン?」
「ここからずっと西の方にある地方の事ですよ。ちなみに私たちが今いるのはイースタンという地方なんです」
「ちなみに北の地方がノーヅァン、南がサウザーンよ。…ところで、あんたはどこの地方で生まれたのか思い出せない?」
「え?…ごめん、そこまでは思い出せないや」
「だろうと思ったわ。さっきも言ったけど、自分のペースでいいから少しずつ思い出していきなさい」
朝の時も思ったが、ツンツンしてる印象が強いけど優しい所もあるんだな。少しずつでいいから思い出してって。…まあ記憶喪失なんて俺が即席で思いついた嘘だから意味ないけどさ。
「…そろそろお昼の時間ね。二人とも、町へ戻りましょ」
俺たちは立ち上がり、町へ戻っていった。
――その夜。俺たちが晩ご飯を食べている時の事だった。
「ねえ、あんたに一つ聞きたい事があるんだけど」
「ん?今度はどうしたんだ?」
クリムは俺に聞きたい事があるらしい。今度は何なんだ?俺の記憶に関する話題は出来ればして欲しくないが。
「あんた、あたし達と一緒に冒険者ギルドで仕事してみない?」
「え?」
俺の予想とは違う質問だった。
「急にどうしたんだよ、クリム?」
「今日のあんたを見ていて思ったの。あたし達と一緒に行動を取れば、魔法の扱いが上達出来るんじゃないかって。あたしみたいな魔法を扱える人はね、練習よりも本番の方で成長しやすい物なのよ」
「それに、もっとナオトさんの事を近くで触れ合いたいと思っているんです。今は仕事以外の時しか会っていないですし…」
クリムとナラは俺を冒険者ギルドで働いてみないかと誘っている。俺も密かにそこで仕事したいと思っていたし、この機会を逃すわけにはいかないだろう。
…だけど、不安だな。今の俺でどこまでやれるのか。
「気持ちはありがたいけど…いいのか?俺を誘うなんて。二人の足手まといにならないか不安だよ」
「構わないわ。しばらくの間はあたし達がフォローしてあげるから。それに、最初は誰だってギルドで働くのは不安なのよ。あたし達だってそうだったし。ね、ナラ?」
「はい。だからナオトさんも、最初は仕事に慣れる事だけを考えて下さいね。そうすれば自然と上達していきますから」
「そういう事。…で、どうするの?一緒に働くか、働かないのか」
最初は誰だって不安、か。俺が元の世界にいた時も同じ事をよく言われていたな…。とにかくここまで言われた以上、選択肢は一つだ。
「分かった。俺も二人と一緒に冒険者ギルドで働くよ」
「決まりね。じゃ、早速明日からギルドに行って加入の手続きをするわ。くれぐれも寝坊しないようにね」
「ああ。明日はよろしく頼むよ、二人とも」
「任せてください♪」
こうして、俺は冒険者ギルドで働く事を決めた。明日から早速そこで働く事になる。不安もあるが、楽しみだ。
投稿が遅くなってごめんなさい!