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クリムからの授業(前篇)

 俺がこの世界に来て一週間が経過した。その間に俺は二人からトレラントの色んな店を案内して貰ったり、家の掃除の手伝いをしたりと色々やっていた。

 そのおかげで、俺はこの世界に少しずつ慣れてきた。今では一人で町の中を探索する事も増えている。この町に住んでる人たちは親切な人が多いから、とても助かってるよ。

 …ああ、そう言えば。アーサーさんにあげた俺の制服の件だけど、後日また服屋に来たら意外な結果になったんだ。何でもこの世界では大変珍しい素材を使った服だから、高く買い取らせてくれだって。とりあえず俺はその制服を売る事になったけど、買取金額は何と驚愕の1億ゴールド。クリムとナラはそれを聞いて驚いてた。まさか俺の制服にそんな価値があるなんてな。まあそのおかげで、しばらくお金には困らずに済むが。


 とにかく、そんなビックリする出来事がありながらも俺は毎日を楽しく過ごしていた。


「――ナオトさんと私たちが会ってから、今日で一週間も経つんですね」


 俺たちは朝食を食べながらそんな事を話していた。ちなみに今日のメニューは目玉焼き。クリム曰くデザートイーグルという魔物が産んだのを使っているらしい。一体どんな奴なのか、想像が膨らむ。


「本当にあっという間よね~。ナオト、少しは記憶を取り戻してきたかしら?」

「…いや、全然」

「そう。ま、焦らず自分のペースでやっていけばいいわ」


 俺は記憶喪失だという事を偽りながら生活している訳だが、これがいつまで持つか不安だ…。もしバレてしまったらどうしよう?二人から嫌われそうで怖いな。


「…ああ、そう言えばあんたに聞きたい事があるわ。いいかしら?」

「え?いいけど」

「あんた、あたし達が仕事に行ってる間に町の外まで出かけてるみたいね?何をしてるの?」


 クリムは俺にそう聞いてくる。…実は俺、密かに町から出て近くにある草原で魔法を上手く扱う練習をしていたりする。もしもの為に備えて、だ。

 それに俺はロゴスに約束したんだ、この力を誰かを守る為に使うって。


「ああ、それなんだけど…実は俺、魔法を上手く使えるように練習をしているんだ」

「魔法の練習?」

「そうさ。俺もいつかは二人みたいに戦う時が来るかもしれないから…。だから、今のうちにやっているんだよ」

「…そういう事だったのね。ま、やる気があるのはいい事だわ。関心関心」


 クリムは、俺が魔法の練習をしていると知って関心している様子だ。相変わらず少し言い方が冷たいような気がするが…そんな事はどうでもいい。


「まあ、今はファイアの魔法しか覚えていないんだけどね。出来れば他の魔法も覚えられたらいいなーとは思っているんだけど…」

「いいわ。だったら今日はあんたに付き合ってあげる」

「…え?」

「あんたが魔法を使いこなしたいという気持ちは伝わったわ。だからこのあたしが直々に色んな魔法を教えようと思っているワケよ」

「クリムさんの家族は代々にわたり、魔法を扱うのを得意としているんです。ちなみに私とクリムさんは昔から同じ町で住んでいるので、クリムさんのお父さんにも何度かお会いした事があるんですよ。凄い方でした」

「そういう事。…どう?そんな家系を持つあたしが教えてあげるんだから、悪くないでしょ?」


 色んな魔法を覚えてみないか、と提案するクリム。教えてくれるのはとてもありがたいが、今日の仕事は大丈夫なのだろうか。


「いいのか?冒険者ギルドに行って仕事しなくても…」

「本当は今日もそうしたい所だけどね。でもあんたの服が高く売れたおかげでしばらくお金には困らないしね…。だから今日は休む事にしたわ」

「それから、ギルドの仕事は毎日必ず行かないと駄目という決まりはありませんからね。依頼を受けるかは個人の自由ですので」

「はあ…」

「で、どうすんの?あたしからの授業を受けるか、受けたくないのか」


 当然、ここで断る俺ではない。せっかく色んな魔法を取得する事が出来るチャンスなんだから、絶対に受けよう。


「受けるよ。クリム、たくさん俺に魔法を教えてくれないか」

「…分かったわ。じゃ、また後でね」


 こうして、俺はクリムから魔法を教わる事になった。




 朝食を食べ終わり身支度を済ませた後、俺たちは町から出て草原へと向かう。以前から俺が練習している場所だ。今日も天気はよく、心地よい風が吹いている。


「…あんた、ここでいつも練習をしているワケね。まあここなら魔物は出ないし、素人のあんたでものびのびと出来るわね」

「え、そうなのか?初めて知ったよ」

「トレラントのような町には、魔物を寄せ付けない特殊な魔法が密かに使われているの。範囲は結構広くてね、今あたし達がいる場所も含まれてるワケ」


 へぇ、そんな仕組みがあったのか…。RPGで町にモンスターが出てこない理由みたいなもんだな。


「…そんな説明は置いといて。早速、魔法の練習に入るわよ。最初はあんたが唯一取得しているファイアからね。どれくらい使えるようになったかあたし達に見せて頂戴」

「ああ、分かったよ」


 俺は二人に魔法が当たらないように離れると、両手を前にかざす。


「――ファイアッ!」


 呪文を唱えると、そこから勢いよく大きな炎が放たれる。相変わらず凄い火力だ。何度も出しているので少しだけコントロール出来るようになったが、それでも難しい。流石に『神の力』だけあって、人間が使いこなすのは至難の業だ。


「…相変わらず凄い火力ね。その状態で前に歩く事は出来る?」


 クリムにそう言われ、俺は一歩一歩と前に進む。――ぐっ、流石に歩きながら出すのはキツイな。まるで大きい岩を押しながら歩いているかのようだ。


「何とか出来るみたいね…。いいわ、魔法を止めて」


 俺はファイアの魔法を止める。魔法の出し入れは苦労していたが、今では何とか出来るようになった。


「どうだった?」

「正直、あんたの魔法が凄くてどう言えばいいのか分からないけど…とりあえずはまずまずと言った所ね」


 よし、一段階目はクリアって所かな。


「じゃ、次の魔法ね。ここからはあんたの取得していない魔法をどんどん言うから、それらを使いこなせるように頑張って」

「分かった。それで、どんな魔法を教えてくれるんだ?」

「そうね…。じゃあ次はサンダーよ。サンダーを出す時は両手を上に構える必要があるの。まずはあたしがお手本を見せるわ」


 クリムは背中から杖を取り出し、俺の隣に来る。


「いい?サンダーはこうやって唱えるのよ…サンダーッ!」


 杖を上にかざすと、彼女の目の前に小さな雷が落ちてくる。雷の音はバチバチといった感じで、実際の雷みたいなドーン!というのではない。雷の音が苦手な人でも耐えられそうだ。


「…こんな感じね。じゃあ、次はあんたが出してみて。ゆっくりでいいからね」

「ああ」


 俺は両手を上に構え、唱える準備に入る。さっきのファイアがあれだけの威力だから、サンダーはどんなのが出てくるのだろうか。何だかドキドキしてきた。


「…よし。――サンダーッ!!」


 俺がサンダーの魔法を唱えた、その時だった。


 ――ドォォォォォンッ!!!


 俺の目の前に、巨大な雷が落ちてきた。さっきクリムが出したのとは大きさも音も明らかに違う。直撃を食らえば即死は免れない、そう感じさせる物だ。


「ぐっ!?」

「「きゃっ!」」


 今の雷で俺たちは思わず目をつぶり、悲鳴を上げる。


「…す、凄い雷でしたね…」

「え、ええ。そうね…。あんなの直に食らったらひとたまりもないわ。あたしが使うのより危険すぎる」


 クリムの言う通り、この魔法を使うのは明らかに危険だ。何か強い魔物を仕留める時だけに使うとか、そう言うのじゃないと駄目だろう。


「と、とりあえず合格…って事で、いいか?」

「本当にとりあえずはね…。とにかく、次の魔法を教えるわよ」


 クリムは戸惑いながらも、俺に色々な魔法を教える授業を続けた。

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