異世界で過ごすための服を買おう!
俺はクリムとナラから町にある施設などを案内して貰いながら歩いていた。町は中世ヨーロッパ風で、ここも『異世界もの』にそっくりだ。
町の中は賑やかで、世間話をしている人たちや買い物を楽しむ人、町を走り回る子供もいる。それらを見ているだけでも飽きなかった。
「――で、ここがあたし達の仕事場である冒険者ギルドよ。あたしとナラは毎日ここで色んな依頼を達成させて報酬金を貰っているの」
「へぇ。いつから始めたんだ?この仕事」
「そうね。今から二年前、あたし達が13歳の時に始めたわ」
「じゅ、13歳!?」
13歳って、俺の元いた世界で言うなら中学一年生くらいじゃないか。そんな歳からこの仕事を始めてもいいのか?親から反対されたりしないのかな。
「何驚いてんのよ?そんな珍しい事じゃないでしょ。ね、ナラ?」
「そうですね。冒険者として仕事が出来るのは13歳からって決まりがありますから。…あ、ごめんなさい。ナオトさんって記憶喪失でしたよね」
やめてくれ、ナラ。そのフォローは逆に効くよ…。
「まあその事は置いといて…。あたし達は今から依頼の報告をしに行くから、あんたはそこで待っててくれる?」
「え、俺もあの建物に入ったら駄目なのか?」
「ダメよ。あんたはあたし達と同じパーティじゃないでしょ?すぐ終わるから待ってて頂戴。いいわね?」
「わ、分かったよ…」
俺はクリムの言われた通り、ギルドの入口付近で待つ事にした。…それにしても、本当に賑やかな町だな。俺は目の前に見える人通りを見ながらそう思った。
そう言えばここの冒険者ギルドって俺でも入れるのだろうか?俺は14歳で、一応魔物と戦える力もある。あと自分で言うのもなんだが運動神経はいい方だ。学校の授業は苦手だけど、体育だけは得意だったからな。
まあ今はここで働くより、この世界に慣れていく方が優先だろう。入るのはその後からでも遅くはないはずだ。
「――お待たせ、ナオト。用事を済ませてきたわよ」
しばらく待っていると、クリムとナラが戻ってきた。
「お帰り、二人とも。で、この後はどこへ行くんだ?」
「そうね…。本当はこのまま家に帰ろうと思っていたんだけど、先にあんたの服を買いに行った方が良さそうね」
「俺の服?」
「そうよ。あんたのその恰好、明らかに変だもの。そのまま色んな所をぶらついてたら怪しまれるわ」
そんなに変かな、俺の着てる制服…。まあこの世界ではそうなら仕方がない。服屋へ向かうとするか。
「分かったよ。服屋に案内してくれるかい?」
「いいわ。じゃあ、ついてきて」
俺たちは再び歩き出し、服屋へと向かう。ここからそんなに遠くはなく、すぐに店へ到着した。
「ここがこの町の中で最も大きい服屋よ。ここにはアーサーさんっていう人がこの店を経営しているの」
「私たちもよくこのお店に行って、新しい私服とかを買ったりするんですよ~。それからアーサーさんはとても優しい方ですから安心してくださいね」
そうなのか。一体どんな人なんだろうな、アーサーさんって。
「…ところで、あんたお金はどれくらい持ってる?」
「え?…あっ!」
俺はクリムの発言を聞いた時に初めて気づいた。…俺、この世界のお金を持っていないじゃないか。マズいぞ、このままじゃ服どころか何も買えない。ロゴス、せめて力を授ける時にお金も入れて欲しかったよ。
「もしかして、お金持っていないんですか?」
「…ああ。ごめん」
「ま、そうだろうと思ってたわ。いいわよ、お金はあたし達が出してあげるから」
「え、いいのか?」
「構いませんよ。困ったときはお互いに助け合う、これが私たちの決まり事ですから。今のナオトさんは色々困っているみたいですし、しばらくの間は私たちがフォローしてあげますね♪」
困ったときはお互いに助け合う、か。…いいな、それ。当たり前の事だけど今の言葉は俺によく響く。
とにかく、服を買うお金は二人が代わりに出してあげる事になった。俺は二人に感謝しつつ、店の中へ入っていく。
「アーサーさーん!こんにちはー!」
「…おお、ナラちゃんにクリムちゃんじゃないか。久しぶりだね」
店に入ると、ナラが手を振りながら挨拶をする。店の奥には眼鏡をかけた小太りのおじさんがいた。どうやらこの人がアーサーさんのようだ。
「言われてみればこの店に来るのは久しぶりね。前にあたし達がここに来たのって何ヶ月前かしら?」
「確か五ヶ月前…でしたよね?ちょっと自信ないですけど」
「正解だよ、ナラちゃん。で、今日は何の用だね?」
「あの、それなんですが…」
ナラは俺の方を見ながら言う。
「…おや、見慣れない顔だね。二人の新しい友達かい?」
「いえ、まだ知り合ったばかりよ。名前はナオトと言ってね。さっき魔物の討伐依頼で草原に向かった際に偶然出会ったの」
「ほう、そうなのか。で、ナオト君。変わった格好をしているが、君はどこから来たんだい?」
「そ、それなんですけど…」
「えっと、実はこの人記憶喪失なんです。目が覚めたら草原の中にいて、それ以前の事は全く覚えていないみたいで…」
「なるほど…記憶喪失か。失礼な事を聞いてしまったね」
「いえ、いいんです」
俺たちはアーサーさんと会話を続ける。アーサーさんはナラの言った通り、とても優しそうな人だ。きっとこの町に住んでいる色んな人から親しまれているんだろうなぁ。
「それで、今日は何の用かね?」
「ナオトに合う服を買いに来たの。こんな格好で町中をうろついてたら怪しまれるかもしれないしね」
「クリムさん、失礼ですよ。…とにかく、この人に合う服がないか探して貰えますか?」
「ああ、構わないよ。そこで少し待っててくれ」
そう言うと、アーサーさんはカウンターから離れて店の中に飾ってある色んな服を見ていく。しばらく待つとアーサーさんは服を二つ持っていき、俺たちのいる方へ戻ってきた。
「ふむ、君に合う服は…これがベストだと思うよ」
一つは茶色を基調とした、長袖の服。ファンタジーものでよく見かけるあの服にそっくりだ。あれ、名前は何て言うのかな?
もう一つは至って普通の黒いズボン。シンプルだが俺でも着やすそうだ。
「どうだい?私の選んだこの服、着てみるかね?」
「はい、着ます」
「分かった。ではあちらにある試着室でこの服を試着してくれ」
俺はアーサーさんが選んだ二つの服を持っていき、試着室で早速着てみる事にした。数分後、着替えを終えた俺は試着室から出て俺の着た服をみんなに見せつける。
「どう、かな?」
「ふむふむ、いい感じに似合ってるよ。やはり私の目に狂いはなかったようだね」
「私もアーサーさんと同じです。とても似合ってますよ、ナオトさん♪」
「さっきの変な恰好に比べればいい方だと思うわ」
どうやら全員から高評価のようだ。クリムの発言にはちょっとムッと来たが。
実際、俺もアーサーさんがオススメしたこの服はとても気に入っている。サイズも俺に合ってるし、何より動きやすい。こういうファンタジーによくある服を着るのは初めてだが、着ていて違和感はあまり感じないな。これなら一日中過ごしても問題なさそうだ。
「ナオト君、この服にするかい?」
「はい!これにします!」
俺はすぐにこの服を買うと決めた。クリムとナラが俺の代わりにお金(この世界ではゴールドと呼ぶらしい)を払い、購入を完了させる。ちなみに買った服はそのまま身につけても大丈夫のようだ。
それから俺がさっきまで着ていた制服はアーサーさんが貰う事になった。アーサーさん曰くこのような服は大変珍しいので後でじっくりと鑑定するとの事。結果が分かり次第、報告すると言っていた。どんな結果が出るのか…何だかドキドキしてくるな。
「アーサーさん、ありがとうございました」
「どういたしまして。ナオト君、鑑定結果が出たら手紙で知らせるよ。それまで少しの間待っててくれ」
「分かりました!」
俺たちはアーサーさんに挨拶をし、店から出た。これで服の購入は終わりだ。この後はどうするか…。
「中世ヨーロッパ風の世界観なのに服屋なんてあるの?」というツッコミがあると思いますが、そこは気にしないで下さい。ハイファンタジーですから(?)。