二人の美少女との出会い
「あんた、本当に一人であのファングをやっつけたの?」
赤髪の少女は俺にそう聞いてくる。
「あ、ああ…。そうだけど」
「…信じられないわね。あんた、どう見たって遊び人みたいな恰好してるくせに」
あ、遊び人って何だよ…?ちなみに今の俺は中学の制服を着ているが、ここの世界の人から見たら変な恰好に感じるんだろうか。
「クリムさん、その発言は流石に失礼ですよ。…あの、すみません。どうやって倒したのか私たちに教えて貰えますか?」
金髪の少女が聞いてくる。ここは素直に説明しておこう。
「えっと、手から出た炎であいつを倒したんだ」
「手から出た炎?それってファイアの事よね?」
「あ、ああ」
「そうだったんですね。…でもクリムさん、ファイアで黒焦げになる事ってあります?」
「それはあり得ないわね。ファイアは魔法の中でも基本中の基本、小さい炎しか出せないわ。…あんた、念のためにファングを倒した魔法をあたし達に見せて頂戴?」
ええっ、急に言われてもなぁ…。またあの魔法を出せるか自信ないし。だけどここで断ったらどうなるか分からないし、やってみるか。
「分かったよ。――ファイアッ!」
俺は後ろを振り向き、再び片手を前に突き出して魔法を唱える。
"ボオオオオッ!!"
すると、俺の手からさっきの火炎放射みたいな炎が飛び出してきた。これだ、さっきファングを黒焦げにした奴は。
「ク、クリムさん、あれって…」
「ええ。間違いなくあたしの知ってるファイアじゃないわ。上位魔法のバーニング…に、似てるわね」
「でもあの人、ファイアって言ってましたよ?」
「そうね。一体どういう事かしら?」
二人は今の俺が出したファイアを見て、不思議そうにしながらひそひそと話していた。よく分からないがこの世界の一般的な魔法とは違うって事か?
「あ、あの…とりあえずこれで納得してくれたかい?」
「ええ。本当にとりあえず、はね。それよりあんた、名前は何て言うの?」
名前か…。ここは怪しまれるのを覚悟で名乗った方がいいかな。
「俺、藤崎直人って言うんだ」
「フジサキ…ナオト?服装に違わず変な名前をしてるわね」
予想通りの反応だな。やはりこの世界の人からすれば妙に感じるか。
「まあ、いいわ。次はあたし達の番ね。あたしはクリム・ヒルトマンって言うの」
「ナラ・マイアーです。私たちは二人で冒険者をやっているんですよ」
「ちなみにあたしの職業は魔術師で、ナラが剣士よ。まあ見れば分かるわよね」
赤髪の方がクリム・ヒルトマンで、金髪の方がナラ・マイアーか。…それにしても本当に可愛いな、二人とも。しかも冒険者ときた。まさに、俺が好きな『異世界もの』の展開だ。
二人とも動きやすそうな服をしており、クリムと名乗った少女は背中に立派な杖を背負っている。もう片方のナラという子は先ほども言ったが、背中に大きな剣を背負っているのが特徴的だ。女の子なのにあんな重い物を背負ってて平気なのだろうか。
「ところであんた…えっと、これからあんたの事はナオトって呼んでいい?」
「構わないよ」
「分かったわ。で、あんたに一つ聞きたい事があるんだけど。ナオト、あんたはどこから来たの?」
今度は俺がどこから来たのかを聞きたいようだ。…どうする?こればかりは素直に話すわけにはいかないし、参ったな。
「えっと、それは、その…」
「何?分かんないの?…もしかしてあんた、記憶喪失?」
記憶喪失――。そうだ、それでいこう!これならある程度は誤魔化せるかもしれないぞ。相手に嘘をつくのは申し訳ない気分だが、今はこれで乗り切るしかない。
「あ、ああ。実は俺、自分の名前以外を思い出せないんだよ。気が付いたらこの草原の中にいたんだ。よく分からないまま歩いてたら、そこの魔物に襲われて…」
「そういう事だったのね。名前だけ覚えてるってのも変な話だけど…まあそれはいいわ。それよりまずは戦利品を持ち帰らないとね」
とりあえず納得はしてくれたようだ。ほっ、よかった。
クリムと名乗った少女は黒焦げのファングに近づくと、奴の口に生えている牙を抜き取る。
「何やっているんだ?」
「戦利品を持ち帰るのよ。あたし達は冒険者ギルドっていう施設で仕事しているんだけど、魔物を討伐した証拠として必ずこれを持つ必要があるの」
「何を持ち帰るのかは魔物によって違うんです。例えばこのファングだったら、牙ですね」
そうなのか。…こういう所も、俺が見た『異世界もの』の展開にそっくりだな。
「とにかく、これで今回の依頼も無事に達成できましたね」
「ええ、そうね。…ナオト、あたし達は遠くへ逃げたファングを追っかけてここまで来たの。このまま逃げられたらどうなるかと思ったけど、あんたのおかげで助かったわ。ありがとね」
「はは…どういたしまして」
人からお礼を言われるのって、何だか久しぶりだな。最近は割と叱られる事が多かったから…。俺はとても嬉しかった。
「あたし達はこれから町に戻るけど、あんたはどうするの?」
…そう言えば俺、町を探していたんだった。出来ればこの子たちと一緒に町へ行けたらいいんだけど。ちょっと頼んでみるか。
「実は俺、近くに町がないかずっと探していたんだ。もし良かったら、君たちと一緒についていっても大丈夫かな?」
「…分かったわ。記憶喪失のあんたをこのまま放っておくのは良くないしね。ナラ、あんたもそれでいい?」
「勿論、私も大丈夫ですよ。それではナオトさん、私たちの町へ案内してあげますね」
「あ、ありがとう!」
どうやら町まで案内してくれるようだ。よかった、断られなくて。町を探すのと友好的な人間と出会う、二つの目標を達成する事が出来た。これなら何とかなりそうだ。
「じゃあ二人とも、町に行くわよ。――ゲート!」
クリムは背中に背負っていた杖を取り出してそれを軽く振ると、目の前に長方形サイズの空間が現れた。空間の向こうには町の中が映っている。す、凄い…。こういう魔法もあるんだな。
「この中に入れば一瞬で町に到着するわ。さっさとゲートの中へ入るわよ」
クリムとナラはゲートの中へ入っていく。俺も続けて中に入ると、あっという間に町へ到着した。後ろを振り向くと外の景色が見える事から、どうやらここは入口付近のようだ。
「着いたわ。ナオト、ここがあたし達の住んでる町――トレラントよ」
「トレラント…」
「ここには色んなお店や家があって、とても賑やかな所なんですよ。ナオトさん、私たちが色々案内してあげますからしっかりついてきて下さいね」
俺は二人についていき、トレラントと呼ばれる町を探索する事になった。