表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/9

二人の美少女との出会い

「あんた、本当に一人であのファングをやっつけたの?」


 赤髪の少女は俺にそう聞いてくる。


「あ、ああ…。そうだけど」

「…信じられないわね。あんた、どう見たって遊び人みたいな恰好してるくせに」


 あ、遊び人って何だよ…?ちなみに今の俺は中学の制服を着ているが、ここの世界の人から見たら変な恰好に感じるんだろうか。


「クリムさん、その発言は流石に失礼ですよ。…あの、すみません。どうやって倒したのか私たちに教えて貰えますか?」


 金髪の少女が聞いてくる。ここは素直に説明しておこう。


「えっと、手から出た炎であいつを倒したんだ」

「手から出た炎?それってファイアの事よね?」

「あ、ああ」

「そうだったんですね。…でもクリムさん、ファイアで黒焦げになる事ってあります?」

「それはあり得ないわね。ファイアは魔法の中でも基本中の基本、小さい炎しか出せないわ。…あんた、念のためにファングを倒した魔法をあたし達に見せて頂戴?」


 ええっ、急に言われてもなぁ…。またあの魔法を出せるか自信ないし。だけどここで断ったらどうなるか分からないし、やってみるか。


「分かったよ。――ファイアッ!」


 俺は後ろを振り向き、再び片手を前に突き出して魔法を唱える。


 "ボオオオオッ!!"


 すると、俺の手からさっきの火炎放射みたいな炎が飛び出してきた。これだ、さっきファングを黒焦げにした奴は。


「ク、クリムさん、あれって…」

「ええ。間違いなくあたしの知ってるファイアじゃないわ。上位魔法のバーニング…に、似てるわね」

「でもあの人、ファイアって言ってましたよ?」

「そうね。一体どういう事かしら?」


 二人は今の俺が出したファイアを見て、不思議そうにしながらひそひそと話していた。よく分からないがこの世界の一般的な魔法とは違うって事か?


「あ、あの…とりあえずこれで納得してくれたかい?」

「ええ。本当にとりあえず、はね。それよりあんた、名前は何て言うの?」


 名前か…。ここは怪しまれるのを覚悟で名乗った方がいいかな。


「俺、藤崎直人って言うんだ」

「フジサキ…ナオト?服装に違わず変な名前をしてるわね」


 予想通りの反応だな。やはりこの世界の人からすれば妙に感じるか。


「まあ、いいわ。次はあたし達の番ね。あたしはクリム・ヒルトマンって言うの」

「ナラ・マイアーです。私たちは二人で冒険者をやっているんですよ」

「ちなみにあたしの職業は魔術師で、ナラが剣士よ。まあ見れば分かるわよね」


 赤髪の方がクリム・ヒルトマンで、金髪の方がナラ・マイアーか。…それにしても本当に可愛いな、二人とも。しかも冒険者ときた。まさに、俺が好きな『異世界もの』の展開だ。

 二人とも動きやすそうな服をしており、クリムと名乗った少女は背中に立派な杖を背負っている。もう片方のナラという子は先ほども言ったが、背中に大きな剣を背負っているのが特徴的だ。女の子なのにあんな重い物を背負ってて平気なのだろうか。


「ところであんた…えっと、これからあんたの事はナオトって呼んでいい?」

「構わないよ」

「分かったわ。で、あんたに一つ聞きたい事があるんだけど。ナオト、あんたはどこから来たの?」


 今度は俺がどこから来たのかを聞きたいようだ。…どうする?こればかりは素直に話すわけにはいかないし、参ったな。


「えっと、それは、その…」

「何?分かんないの?…もしかしてあんた、記憶喪失?」


 記憶喪失――。そうだ、それでいこう!これならある程度は誤魔化せるかもしれないぞ。相手に嘘をつくのは申し訳ない気分だが、今はこれで乗り切るしかない。


「あ、ああ。実は俺、自分の名前以外を思い出せないんだよ。気が付いたらこの草原の中にいたんだ。よく分からないまま歩いてたら、そこの魔物に襲われて…」

「そういう事だったのね。名前だけ覚えてるってのも変な話だけど…まあそれはいいわ。それよりまずは戦利品を持ち帰らないとね」


 とりあえず納得はしてくれたようだ。ほっ、よかった。

 クリムと名乗った少女は黒焦げのファングに近づくと、奴の口に生えている牙を抜き取る。


「何やっているんだ?」

「戦利品を持ち帰るのよ。あたし達は冒険者ギルドっていう施設で仕事しているんだけど、魔物を討伐した証拠として必ずこれを持つ必要があるの」

「何を持ち帰るのかは魔物によって違うんです。例えばこのファングだったら、牙ですね」


 そうなのか。…こういう所も、俺が見た『異世界もの』の展開にそっくりだな。


「とにかく、これで今回の依頼も無事に達成できましたね」

「ええ、そうね。…ナオト、あたし達は遠くへ逃げたファングを追っかけてここまで来たの。このまま逃げられたらどうなるかと思ったけど、あんたのおかげで助かったわ。ありがとね」

「はは…どういたしまして」


 人からお礼を言われるのって、何だか久しぶりだな。最近は割と叱られる事が多かったから…。俺はとても嬉しかった。


「あたし達はこれから町に戻るけど、あんたはどうするの?」


 …そう言えば俺、町を探していたんだった。出来ればこの子たちと一緒に町へ行けたらいいんだけど。ちょっと頼んでみるか。


「実は俺、近くに町がないかずっと探していたんだ。もし良かったら、君たちと一緒についていっても大丈夫かな?」

「…分かったわ。記憶喪失のあんたをこのまま放っておくのは良くないしね。ナラ、あんたもそれでいい?」

「勿論、私も大丈夫ですよ。それではナオトさん、私たちの町へ案内してあげますね」

「あ、ありがとう!」


 どうやら町まで案内してくれるようだ。よかった、断られなくて。町を探すのと友好的な人間と出会う、二つの目標を達成する事が出来た。これなら何とかなりそうだ。


「じゃあ二人とも、町に行くわよ。――ゲート!」


 クリムは背中に背負っていた杖を取り出してそれを軽く振ると、目の前に長方形サイズの空間が現れた。空間の向こうには町の中が映っている。す、凄い…。こういう魔法もあるんだな。


「この中に入れば一瞬で町に到着するわ。さっさとゲートの中へ入るわよ」


 クリムとナラはゲートの中へ入っていく。俺も続けて中に入ると、あっという間に町へ到着した。後ろを振り向くと外の景色が見える事から、どうやらここは入口付近のようだ。


「着いたわ。ナオト、ここがあたし達の住んでる町――トレラントよ」

「トレラント…」

「ここには色んなお店や家があって、とても賑やかな所なんですよ。ナオトさん、私たちが色々案内してあげますからしっかりついてきて下さいね」


 俺は二人についていき、トレラントと呼ばれる町を探索する事になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ