異世界は実在した
「俺を、別の世界に転生させる事だって!?」
俺は今のロゴスの発言にビックリした。別の世界、つまり俺の好きな『異世界』というのに転生させるというのだ。
まさか空想の中に過ぎなかった異世界が、本当にあったなんて…!事実は小説よりも奇なりという言葉があるが、今はまさにその状況だ。
「ああ、そうだ。別の世界に行きたいという願望があるというのは君の記録で見たよ。どうやら君は中世ヨーロッパ時代に似た世界が好きなようだね?」
「そ、そうだけど…。いや、あれはあくまでただの願望だから…」
「なに、遠慮する事はないよ。そんな君にとっておきの世界がある。もしよかったらどんな物なのか少しだけ覗いてみるかい?」
ロゴスがそう言った瞬間、彼の後ろから大きなモニターらしき物が現れる。そしてそのモニターから映像が写し出された。
その映像に映っていたのは、中世ヨーロッパのような街並み、綺麗な大自然、そして巨大なモンスターと戦っている人々…。まさに、俺が好きな『異世界もの』の光景だ。
まるでアニメからそのまま飛び出してきたような世界を見て俺は胸が躍り始める。
「いま君に見せたのは僕がオススメする世界の一つさ。ここでは剣と魔法が日常的に使われており、君の住む世界には存在しないたくさんの生物がいるんだ。人々はその生物と共存したり、時には人間を脅かす魔物と戦ったり…。どうだい、君が望んでいるのはこういう世界だろう?」
「あ、ああ…!間違いなくこれだよ!」
「じゃあ、今すぐこの世界に行ってみたいかい?」
「ああ!いくいく!」
俺は子供のようにはしゃぎながら言う。さっきまで死んだことをあれほど悔やんでいたというのに、我ながら単純だなぁ。
「よし、それなら話は決まった。君をこの世界へ転生させる事にしよう」
「本当か!?ありがとう、ロゴス!…あ、そう言えば一つ聞きたい事があるけどさ」
「何だい?」
「転生って事は、もしかして赤ん坊からやり直さなければいけないのか?」
俺はその事をロゴスに聞いてみた。確か前に読んだ漫画だと、主人公が異世界に転生した時は赤ん坊の状態だったんだよな。まさか俺もそれと同じになってしまうのだろうか。
「その心配はいらないよ。君はその姿のまま転生させるから。その方が君にとっても都合がいいだろう?」
「まあ、そうだけど…」
どうやら赤ん坊からやり直し、という訳にはいかないようだ。ほっ、よかった。
「では君をあちらの世界へ転生させよう。――と、その前に」
「な、なんだ?」
ロゴスは自分の手を俺の身体に軽く触れる。――その瞬間、俺の身体から何かが湧き上がってきた。言葉にするのは難しいが、まるで力が体中から溢れてくるような…そんな感覚だ。
「よし、これでいいね」
ロゴスは手を俺の身体から離し、そう言った。
「い、一体何をしたんだ?」
「君があちらの世界に行ってもすぐ順応出来るように、色々と力を入れておいたよ。あちらの世界の言語が理解出来るようになったり、剣や魔法を扱えるようにしたりね。それと、最低限の魔法を最初から取得させておいた。これで君が魔物に襲われたとしてもすぐにやられる事はないだろう」
わざわざそこまでしてくれるなんて…。このロゴスって人はいい神様だな。俺が行きたい世界へ行かせてくれるだけじゃなく、色々と力をくれるとは。本当に感謝しかない。
「では、次に世界へ繋がる扉を用意しよう」
ロゴスがそう言うと、後ろを振り向き片手を前に突き出す。するとそこから大きな扉が現れた。
「この扉の中に入れば、あちらの世界へ行く事が出来る。だけどここへ戻って来る事は二度と出来ないよ。君はこれから一人で生活をしなければならない」
「…」
「そう言われて怖くなってきたかい?大丈夫、今の君にはあの世界で生きていく最低限の力がある。それに先ほど君の身体に触れた時――僕は感じたんだ。どんな事があっても絶対に諦めない、という決心がね」
「俺に、そんな心が…?」
「そうさ。君はその事を自覚していないかもしれないけど、僕には分かるよ」
本当にそうだろうか…。だけどロゴスの言ってる事を聞いて、不思議と勇気が湧いてきた気がする。神様が直々に僕の事を応援してくれたんだからそう思うのは当然だろうか。
「色々とありがとな、ロゴス。俺の為に色々やってくれて。あんたには本当に感謝しかないよ」
「どういたしまして。…さあ、そろそろ君にはあっちの世界へ行って貰わないと。僕には他にやるべき事があるからね」
「分かった。じゃあ、行ってくるよ!」
俺は扉へ向かい歩き出す。閉じていた扉はゆっくりと開き始め、中から光が溢れてきた。まるで俺を誘っているかのように。
――この扉の向こうには先ほど見た世界がある。ゲームやアニメでたくさん見た、ファンタジーな世界が俺を待っているんだ。元の世界へ戻れないのは残念だけど、いつまでも悔やんでいては前に進めない。向こうの世界でも頑張って生きて行こう。もしかしたら可愛い女の子にもたくさん会えたりしてな。なんて。
俺は扉の中に入ると、光が俺を優しく包み込む。とても心地よい光だ。
「――向こうの世界でも頑張ってね。藤崎直人」
光の中で、ロゴスの応援する声が微かに聞こえてきた。
「う、ううん…。ここは…」
俺は目を覚ますと、そこに見えたのは綺麗な青空。さっきまで無機質な部屋の中にいたので、より美しく感じた。
ゆっくりと体を起こし、俺は辺りを見回す。
「うわあ…」
俺は目の前に見える光景を見て思わず声が漏れる。俺が今いる場所。そこは、どこまでも広がる美しい大草原だった――。