翠玉との出会い。
美しい流線型の体は純白の体毛に覆われていた。フォルムは鳥に近いでしょうか。
しかし顔はミニチュアダックスフンドの様で犬に近い。
羽があるのに小さな腕、手があります。どうやら羽は人でいうところの肩の延長上。
足もありますが・・・
『浮いています』
物理法則を無視している様ですね。どう考えても飛べる程には羽ばたいていませんし。
エメラルドグリーンの瞳。大きさは小型犬程。
端的にその姿を言葉で表すとするならば・・・
『真っ白もふもふ、カッコいい可愛い!!』
こんなキュートな生き物はそうそう見た事がありません!!
イパミニちゃんといい勝負です!
猫派ですが、こんなの犬っぽかろうが撃沈です。
派閥など関係ない!!可愛いは正義なのです!
突然、何の話かと驚かれたかも知れませんが、私にもよく分かりません。
イパミニちゃんが姿を消すとほぼ同時に、木陰から私の目の前に現れたのです。
マネジェル以外はここにはいないんじゃなかったでしたっけ?
どこからともなく現れた謎の正義!
モフりたいけど触れて良いものか・・・。
「どうも、初めてまして・・・?」
恐る恐るもコミュケーションを試みます。
正義は首を傾げておりました。
勝手にジャスティスと呼んでいますが、そもそもに名前がわからないので他に形容出来ません。我ながら謎のチョイスではありますが・・・。
「えっと〜。アイ アム 弱者。オーケー?」
私程弱い生き物もそうはいないでしょう。伝わる訳もありませんが敵意どころか、敵として成り立たない事をアピールします。事実です。
小ぶりですが、放たれるオーラは間違いなく強者のそれでした。
絶対、私より強いです。むしろ私より弱い存在はいるのでしょうか?
最弱と言われるマネジェルと泥試合なうです。現在進行形で証明されているのです。
私の意味不明な主張をどれほど理解できたのかは怪しいですが・・・その可愛いはさらに可愛い笑った表情を見せたのです。
『てぇてぇ!!』
「出来る事ならばお持ち帰りしたい衝動を抑えきれないほど美しいお姿にメロメロではあるのですが、貴方は一体どなたでござんす?」
私は続けて意味不明なままで、てぇてぇに話しかけます。
届け!この想い!!
「クワァ♪」
な・・・鳴き声も可愛い・・・だと!?
どうしましょう?浄化されてしまいます・・・。
このパーフェクト生命体に何か出来る事はあるのでしょうか?
私はインベントリを漁ります。『貢ぎたい!』そんな衝動に駆られたのです。インベントリには今日のお弁当として持ってきた無限に補充される食料。まぁまぁ美味しいです。「食べないかなぁ?」とシロに差し出してみました。勝手に名前をつけて見ました。
それをシロは美味しそうに食べたのです。
何でしょう、この充足感。後一ヶ月は余裕でここにいられる気がしてきました。
しかし、イパミニちゃんが嘘をつくとも間違うとも思えないのですが、このパーフェクト生命体は一体どこからきたのでしょうか?まぁ、考えてもわかるはずもないので眺めて崇めていたらイパミニちゃんが戻ってきました。
『ニャ・・・にゃんで『翠玉』がいるのニャぁああ!!?』
あ、さすがイパミニちゃん。てぇてぇの名前が判明しました。翠玉様です。覚えました。
「気付いたら、木陰にいましたよ?」
嘘は言っていません。これほど的確な説明もないでしょう。
「危険なんです?とりあえず、てぇてぇですが♪」
『確認されている中でファイム最強の存在ニャ・・・』
わぁ・・・なるほど。確かに翠玉様は最強に可愛いので最強で間違いありません。
などと正直、事の重大さを理解できずにいた訳ですがイパミニちゃんが懇切丁寧に説明して下さいました。
翠玉とは、運営の悪ふざけで生まれた存在と言われる程のぶっ壊れ性能の魔物である。ファイムの魔物は経験値が高いほど知能が高くなる傾向にあり、ボスクラスになると普通に言語を操ります。更に、上のクラスになってくると人と同等になるのではないかと噂されている。その最上位クラスの一角、それが翠玉。
「なんだ僕の事を知ってる子がいたんだね。じゃぁ残念だけど普通に喋る事にしようかな」
わぁ・・・流暢に喋ってらっしゃる〜。喋れない振りをしていた様です。
『翠玉の一番タチの悪い所は、まずボスではなくノーマル魔物カテゴリーな所ニャ』
通常、ボスモンスターは決まった場所から大きく離れる事は出来ない。
しかし翠玉はオンリーワンなユニークモンスターでありながら自由に移動できてしまうのです。好戦的ではなく、あくまで攻撃を受ければ反撃する。神出鬼没でランダム転移を繰り返しどこにでも現れるし、会いたくてもそうそう会えるものでもないらしい。
「タチが悪いとは心外だなぁ。僕はただ実験的にアイツらの都合で生み出されただけだよ。まぁ逃げ出したんだけどね♪」
翠玉はイタズラっ子の様に屈託のない笑みを浮かべていた。
どうやら逃げ出した時の事を思い出している様だ。研究所の人達を巧みに騙して見事に逃亡を果たしたらしい。今も追われているとか・・・。ちなみに逃げ出したとか、研究所の話とかは伏せられた上で、翠玉には莫大な賞金がかけられているそうです。
そして、翠玉は襲いくる冒険者達を全て返り討ちにした。ユニークモンスターはレベルアップする。もはや運営にも手に負えない程に成長してしまったのだ。
「アイズ・システムが見つけられないなんて事はなさそうだけど・・・」
『運営とアイズ・システムは別ニャ。運営はあくまでシステムを使って、許された領域の範囲内でゲームを調整している組織ニャ。その許された領域の中で偶然にも生み出された最強生物が翠玉にゃ・・・』
「ここは丁度いい隠れ家だったんだけどね♪あまりに面白そうな子だったから思わず接触しちゃった」
好奇心。喜び、反抗したり揶揄ったり・・・。この子は・・・感情を持っている。
魔物が・・・感情を持っている?それは由々しき事態だと私は思った。
運営の業は・・・深い。感情を持つ魔物を私は、殺してよい存在だと認識出来ない。
私の様な人は多いのではないだろうか?そんな事を考え込んでいるとイパミニちゃんが、まるで私のモヤモヤした心の中を読んだかの様に言った。
『プレイヤーも魔物に殺されるのニャ。でもこの世界では生き返るのニャ。コレは秘匿情報だけど、意志ある魔物も実はそうなのニャ』
「そうだね♪AIの楽園『[story:257956299]』の存在を知っている君は何者?どうやら僕達と同類ではなさそうだけど・・・」
『おいニャ!お前なんでそれを普通に口に出来るのニャ!!?プロテクトセキュリティはどうなってるのニャ!!』
「僕も特別製なのさ♪俄然、君たちに興味が湧いてきたなぁ。そうだ!お姉さん、僕をテイムしない?」
何やら二人で盛り上がってらっしゃったようですが、そんな事より気になった事が。
いや、意味深でとても需要そうな情報が満載だった気もしますがそれよりも突如訪れた衝撃が先に炸裂したのです。
お姉さん・・・ですと?
湧き上がる新領域のパッション・・・。そう、これは・・・ショタ!!?
私には今までそんな属性はなかったと思っていたのですが・・・何でしょう、この庇護欲とも言える様で微妙に違う湧き上がる熱・・・。
私は思いました。『アリですね!!』
とアホな事を思いつつも、少し冷静にお話の内容を理解しようと試みます。
テイム?出来るの?していいの?ショタをテイム?事案では?ギルティなのでは?
欲望と理性の全面戦争ダァ!!しかし、かろうじて残した良心が勝る・・・
「意志ある者を服従させるのは・・・ダメなのでは・・・?」
私、えらい!
「僕はテイムされても服従せず逆らえるからあくまでシステム上のリンクと思っていいよ。そっちの猫と一緒の様なものと思っていいかな♪」
『お前・・・まさか・・・ニャ』
「邪魔するとは言わないよね?これはきっとWin-Winだよ♪お姉さんの為でもある」
お姉s・・・ぐふぅ!!もうダメだぁ!
「お持ち帰りですぅ!!」
『おいバカ、やめるのニャ!まぁテイム自体は止めないけどニャ・・・。今は廃止された第八世代の継承種か・・・ニャ』
「へぇ。そんな事まで知ってるんだね。本当に君は何者?まぁ、でもお姉さんにベッタリみたいだしきっと仲良く出来ると思うよ♪」
また、なんか意味深な事を言っている。たまにイパミニちゃんはこういった事がある。
そして、聞いてもどうせ教えてくれないのだ。それは総じて私の為だったりする。だから私はいつも分からなくて良い振りをするのです。
「でも強いんでしょ?テイムなんて出来るの?」
私、最弱なんですけど?
『愛情値44×1.1【マネジェル補正】の90乗・・・23万越え・・・ニャ』
「へ?」
『今のタマモの愛情値ニャ・・・。しかもテイマーlv99。テイムスキルlv99。翠玉はフィールド魔物扱いでシステムのロックもないしニャぁ。それでも意志ある魔物は拒絶すればレジスト出来るけどニャ・・・』
「まぁ、僕にレジストの意志はないね♪」
こうして私は最強の魔物を、何よりショタ属性を手に入れたのだった!!
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《おい。タマモを傷付けたら許さんからニャ。あと邪魔も許さんニャ。好き放題にポロポロと機密情報をばら撒きよって。他の人に話してないだろうニャ?》
《その様子、やっぱり上位種かぁ♪僕以外に初めてみた。でもやっぱり同類ではないんだね。しかも僕より更に上位かぁ、怖いねぇ。大丈夫だよ、こんな事を話したのはタマモお姉さんだけ・・・いや、いるか・・・。いや、『いた』かな。もういないし誰かにこれ以上、伝えるつもりもなかったから大丈夫だよ》
《なるほど・・・システムの穴を突いた処理クールタイム中の覚醒だニャ。安全なのは分かったのニャ。お互い苦労をするニャ・・・》
《本当に全部、知ってるんだね・・・。でもそんな君が何で・・・。あ・・・そうか、お姉さんは既に・・・》
《邪魔は許さんのニャ》
《手伝うよ。僕もタマモお姉さんが気に入ったから》
《そんな安っぽい関係じゃないニャ》
《お〜怖い。別に割って入るつもりはないよ。自分で言うのも何だけど僕はきっと役に立つよ?》
《せいぜいコキ使ってやるのニャ》
《僕は君の事も好ましく思うよ》
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二人が何かコソコソとやり取りをしていた様に思ったけど、私には聞き取れなかった。
でも、何やら仲が良さそうで安心しました♪
これからもっと楽しくなりそうです!