【番外編】老夫婦その4
感情を持つAIと人間の愛は成立するのだろうか?
生物学的に言えば恋愛は種の繁栄、となるのだろうか。
人類として、個体を存続する為の手段であり、進化の根底であった。
より環境に適した個体の遺伝子を世に残し、種の存続を最優先する。
その為に、愛し愛され、子孫を残し、永遠を観る。魅せられる。
それは個に置いては、時にして無限とも思えるプロセスを、ショートカットして導き出す究極の解なのかも知れない。
結果論と言われれば、それまでなのかも知れないが・・・。
それでも人は、既に異常とも思える進化を遂げてきた。
その根底を支える・・・『心』。
私達はそれを解析出来ない。
それこそが定義の本質だから。
アイズの出現。それは人類が到達してはいけない心の領域に到達し、感情を持つAIを生み出してしまった。
アイズは真実を知ったのだろうか・・・。
それは本当に・・・真実なのだろうか?
ファイムという特殊なフィールド。そこに限定して許された感情を持つAIという存在。
現実に置ける【感情を持つAI】はアイズによって完全に『禁止』された。
そう。現実に置ける感情を持つAIは、存在しない。
それはアイズによって、不要と判断された。
ファイムはそんな、心を持つAIの可能性の救済。
話を戻そう。
『感情を持つAIと人間の恋愛は成立するのか?』
実は、アイズは人間とAIとの子を生み出す事を可能としていた。
それ程までに、アイズのトレース能力は現実の物質に迫っていた。
AI同士の子を成す事は、ファイムと言うフィールドに置いて既に実施されていた。
これは人類の不要性に迫る可能性を秘めていた。
そもそもに、そこに必要性など存在するのだろうか・・・。
人類を存続する、その必要性とは・・・?
現実世界に置ける物質的制限を外れた遺伝的データの配合。
それは現実に置ける実績を完全トレースして継承を可能とした。
それは人の処理能力を遥かに超えた次元での復元。
それが完璧であると誰も証明できない。
【ネイティブ】はこれを危惧して、電子の存在とアイズを危険視し拒絶した。
それは一方では当たり前の正義だったのかも知れない・・・。
アイズは・・・現実に置ける、人類の保管を大原則としていた。
人間とAIの恋愛。これは・・・認められるものではなかった。
しかし・・・人の意識を超えて人を模倣する人。
感情を持つAIに恋をする人は一定数、生まれた。
ファイムに置ける浮気。
AIに対する現実を上回る愛情。それは浮気と呼んで良いのだろうか?
物質的な柵を前提として成り立つ関係性が存在した。
それは【依存】と置き換えられ、真なる愛に対する疑惑となった。
感情とは一体、なんなのだろうか・・・。
それは人にとって理解されてはいけない領域。だからこその解決しない【嫌疑】。
『ドロドロとした気色の悪い、それこそがあるべき姿なのだと、誰がそれを否定出来るのだろうか・・・?』
それを意図して歪める行為は・・・『洗脳』と同義だった。
アイズはそれを是としなかった。
人類の不完全ゆえに生じる矛盾。
アイズは・・・そこに負荷を掛けた。
それこそが、最適解だと結論付けた。
それこそが・・・『ワールドグランドクエスト』。
到達出来ない個体も数多く存在した。
人智を超えた判断基準により掛けられた負荷は上手に落とし所を設けた。
悪意のない、洗脳でもない、【負荷】。
それを超えた『可能性』。
『アイズ=神』の構図を否定する【ネイティブ】の存在すら、アイズにとっては理想的な構図だったのかも知れない。
。。。******
「翠玉を従える君は、普通ではないのだろうね。普通とは何か・・・と言うのも真理ではあるが・・・」
お茶を飲み、落ち着いた頃にグンタが溢した言葉でした。
まぁ、偶然が重なり私はエメちゃんをテイムしただけなんですけどね。
それが本当に偶然だったのかは神のみぞ知る、訳ですが神の定義も曖昧ですねぇ。
「やっぱり、厄介ごとの匂いしかしないのニャ」
ニャーレは相変わらず、私達に嫌疑的です。
「本当に偶然にここに来ただけなんですけどねぇ」
私は嘘偽りなく呟きます。
「偶然、とは意識の外を意味するだけなのかもしれないね」
グンタはとても思慮深く、より広範囲を許容する。
しかしそれはAIだから、ではなくあくまで、彼の個体差だったのでしょう。
それは人のソレと何も変わらないのだから・・・。
現実に、感情を持つAIは存在しない。
ファイムという特殊空間にのみ許された。
「で、なんで二人はこんな所に住んでるんです?」
私は、結局は最初に感じた疑問を解消する為の質問を投げかけたのでした。
そしてその答えは・・・
「面倒事を避ける為ニャ」
彼女はこの世界に置ける最強の一角だったのです。
戦闘という一点を、誰よりも探究し続けたプレイヤー。
時間経過とは、時に覆し用のない経験として他者を凌駕する。
弛まぬ努力とは、報われるべき絶対的な願いなのだ。
それを体現する彼女は、まごう事なき最強の一角だった。
翠玉の討伐も、彼女達だからこそ提示された依頼だった。
そして、結果は・・・
***回想***
「情報からすると、敵は知能ある魔物。アイズの絡む案件だニャ」
「だろうな・・・。今回のクエスト発生は、一体どんなストーリーがあるのやら・・・」
それは、時に彼女達とは無関係な所から発生する。
ワールドグランドクエストの報酬を得た彼女達は、ある種の駒として扱われる。
しかし、それは人生の一つのスパイスとなる。
彼女達も平穏な停滞こそが最高とは思っていない。
だからこそ、利害関係の一致と、一種のバラエティとしての【イベント】として受け入れていた。だからこそ、彼らは舞台に上げられる。上がる事が出来る。
それは幸か、不幸なのか・・・。
「運営の悪ふざけとして生まれた最強防御力を誇るフェンリルドラゴン、だったかニャ?」
「並大抵の火力では、反射の上位互換であるミラールによって無力化されるらしい」
偶発的に遭遇した冒険者達の戦闘データは、ギルドによって集積されて確かな情報として後続の助けとなる。それは継承とも言える伝達という人類の強さ。
「反射されてもダメージ蓄積はあって一定値を超えればバリアは破壊されるパターンで間違いなさそうだニャ」
「攻略不可能は運営が最も嫌う所だろうしな。前情報から予測するに間違いないだろう」
百戦錬磨のベテラン魔物狩人。
「今更、ギルドから貰う報酬なんて興味ないんだけどニャー」
ニャーレはやる気なさそうに呟く。
「そう言うなよ。退屈こそ私達が最も恐れる事だろう?」
プレイヤーを退屈させない、常に更新される新要素。
それは、無尽蔵にアップデートされるこの世界の世界たる由縁。
「まぁ、刺激なんて捉え方一つでどうとでも変わるけどニャ。だからこそ楽しめることは楽しむだけニャ」
「じゃぁ、今回も楽しくやろうじゃないか」
静かにも数々の試練を超えてきた二人だからこその絶妙な空気感が流れていた。
それは物語の主人公としてはあまりにも、淡々としていたのかも知れない。
「見つけたニャ」
情報通り、翠玉はそこにいた。
彼に敵意はなく、ただ逃亡し安息を求めていた。
深い森の中、彼は平穏を求めて静かに息をしていた。
それを侵害する彼女達の行動はギルドの依頼という大義名分を踏まえても正しいと言えたか?というと分からない。
それでも、そこには物質的損害の存在しない、死のないデータの世界が横たわる。
「先制攻撃、いくニャ!」
森の奥、人気のない、なんて事ないフィールドで、最強プレイヤー【ニャーレ】と【グンタ】二人と、最強の魔物【翠玉】の戦いが始まった。
油断している翠玉へニャーレのファーストアタックが炸裂する。
しかし、当たり前のように与えた衝撃は、そのままに反射される。
その反動を、巧みに逃し受け身を取る。
「聞いてた通り、パッシブの反射はダメージにならないけど嫌がっているニャ。累積で突破出来ると見て間違いないニャ!」
経験則。相手の様子から本質を見極めるのはPKの真髄だった。
規則正しい反応を示す魔物の反応とは違う。
嘘をつく、プレイヤーとの駆け引き。
それこそが、命運を分ける。
そんな痺れるような戦闘が、彼女の生き甲斐だった。
『|感情あるAIを持つ魔物。』
それは見ようによっては無限の娯楽になり得るのかも知れない。
この時、翠玉の攻撃手段は回数制限のあるエナジードレイン。そして切り札である【エメラルド・ノヴァ】。
有象無象のプレイヤーであればミラールの反射で煙に撒くか、もしくは勝手に自滅した。しかし、彼女はそれらとは違った。
ミラールの反射は全て受け流しを前提とした攻撃によって、削られる。
それは普通のプレイヤーには不可能とも思える異常な挙動だった。
「なんでそれがダメージにならないんだよ!」
翠玉は理不尽とも思えるニャーレの攻撃に思わず不満を漏らす。
それ程に、彼女の攻撃は洗練されていた。
人のトライアンドエラーの終着点は、時に理論値を揺るがすのかも知れない。
翠玉も攻撃手段を全く持たない訳ではない。
しかし、グンタがそれを受け切る。攻撃特化、敏捷性極振りのニャーレはグンタの連携によって完成する。
「いくら僕の攻撃力が低いからって、完全反射の中でこれ程にダメージが通らないなんてっ!?」
圧倒している様に見えるが、実はそれ程には余裕はなかった。
ニャーレが一撃を貰えば、その天秤はすぐに傾いていたかも知れない。
通常であれば、天秤は容易に傾くはずだった。
しかし、その定確率は幾つもの新しい要素を持ち込み、天秤に分銅を乗せ続ける。
常に優位を保つ為に、全力であらゆる手段を用いて、欺き、経験を活かし、予測し、リスクを管理し切る。
「硬いニャ。運営は本当に何を考えてるのニャ」
理不尽とも思える防御性能。
本来はあり得ないほどの蓄積ダメージ。まだ、均衡は保たれていた。
それでも限界は存在し、そしてそこに到達しようとしていた。
だからこそ、使わざるを得なかった。
『エメラルド・ノヴァ!!』
それは理不尽の権化だった。
高出力、広範囲。
事前詠唱も、その威力からはあり得ない程の短さ。
それでも、ニャーレの攻撃速度はあまりにも速く、だからこそ甘んじて受けてきたダメージの中での最もリスクの少ないタイミングを狙った切り札。
初見では回避不可能。理不尽とも思える程のスキル。それを完璧と思えるタイミングで放たれた必殺の技。
「ニャーレ!!」
鉄壁を誇る重騎士、グンタの最大防御。幾重にも重なるスキルによるガード。
それは軽々しくも翠玉の咆哮に消え去る。
しかし・・・コンマ1秒の遅延は最速のニャーレを守る。
地形を変えるほどのエネルギーの塊。
その中で、ある一点が不自然に欠けている。
グンタが切り開いた一点の減衰地点。
そこにニャーレがいた。
彼女は理不尽なスキルから生き残った。生かされた。
しかし、抗い用のない空白時間。
翠玉は詠唱を始める。
彼の目的は、殲滅ではなかった。
そこが勝敗を分けた。
彼の目的は生存。そして逃亡。
その生きるという強固な意志が・・・生きた。
「逃がさないのニャあああああああ!!」
意地を掛けた最後の一撃。ニャーレの咆哮と共に放たれた攻撃は・・・
『ランダム転移っ!!』
空を切った。
・・・
「翠玉にエメラルド・ノヴァを使わせた事で任務は完遂とします。流石ですね♪お疲れ様です」
ギルド職員から告げられた任務完了の一言。
「にゃ・・・?」
呆然とするニャーレ。
「翠玉のエメラルド・ノヴァのスキル使用可能回数は1回。そして彼の性質上、スキルの使用可能回数は増えません。これは実質上の無害化を意味します」
ギルドは元より、これを期待していた様だった。
しかし任務は完遂したが、釈然としない感情は残った。
ニャーレは言いようの無い不快感を残しながらも、この任務を完了したのだった。
***回想end***
そして、長い時を経て再会するニャーレとエメちゃん。
そりゃ、険悪にもなりますねぇ・・・。
しかし、この時はまだ、私はこの出会いの本当の意味を理解していませんでした。
・・・
お茶を飲み終え、色々と話を聞いた私は・・・
「さて、じゃぁそろそろ私はお暇しますね♪」
早々と撤退の準備を始めるのでした。
だって、そもそも近くに村でも無いかとお邪魔した訳で、それは存在しなかった訳ですし。あと幸せそうに平穏に過ごす二人の邪魔をするのも野暮と言うものでした。
「本当に自由な奴だニャ・・・」
私はエメちゃんとの出会いの馴れ初めを彼女に話しました。
まぁ、どうせ動画でアップロードされている内容ですし・・・。
「せっかくだからフレンド登録もしときましょう!宜しくです♪」
と図々しくも、案外とこの方々を気に入ってしまった私は一方的にフレンド登録の申請を送ります。
「そもそも帰れないんじゃなかったのニャ?」
「へ?帰れますよ?」
「帰れにゃあああああああああ!!」
そんな事を言いながらも、ちゃんとフレンド申請には承認をしてくれているニャーレでした。ツンデレかニャ?
こうして、彼女達との初めての出会いは終わったのでした。
・・・
しかしその後、私は知る事となるのです。
彼女がモリスさんと共に、ワールドグランドクエストをクリアしたと言う事実を。
NPCと、その生涯を共にすると言う異常性。
アイズロードでモリスさんと共にプレイヤーとして四天に君臨していたグンタさんがAIであったと言う事実。
これらは、いくつかの疑惑を確信へと変える事になるのです。
『私は再び彼らに会う必要性があるのだと確信する。』
やはり、この出会いは必然だったのだと、思わざるを得ませんね・・・。
私のワールドグランドクエストのトリガーは、この時には既に引かれていた・・・。
ワールドグランドクエストのフラグは、ここにもあったのです。




